第24話 どうか、負けないで



「まず私たちは、このルートで密輸をします。あらかじめ決めた日程通り、この海岸に必要なものを置いていきます。そしてその分配を、カルカロフ家や傘下の皆さんにお願いしたく。」



今回マージニア様を逃がしたのはカルカロフ家だけど、その傘下の人たちの中でもマージニア派の人たちはきっといるはずだ。確認することもなく言ったけど、ウィルさんは「わかった」と言ってうなずいてくれた。



「ですが私たちのルートだけでは、きっと物資が足りなくなります。テムライムからレルディアに運航している船の中にも、密輸する物資を乗せたいと思ってます。」



私はさっそくレイヤさんに密輸の仕事を頼んでみようと思っているところではあるけど、彼の船は早いけど小さい。だからこれから戦況が悪化していくと、必要な量が運べなくなることは見えていた。



「パパの力が、必要です。」



正規の貿易のルートで密輸をするためには、パパの力が必要だった。

テムライム側のことは私が多分何とかできるけど、リオレッド側に関してはどうにもできない。どうにか出来る人と言えば、パパしか思い浮かぶ人がいない。



「皆さん多分勘づいていらっしゃると思いますが…。パパがイグニア様に反抗するのも、時間の問題だと思いませんか?」



娘の私もそう思うし、社員さんもそう言っていた。だからきっといつか、パパは今の状況が我慢できなくなって、何か行動を起こそうとすると思う。



「だからパパには、バレないように静かに反抗しておいてほしいんです。到着した荷物の検査員への根回しや分配など、水面下で動く役割をはたしてほしい。」



でもパパがイグニア様にキレたところで、何の役にも立たない。イグニア様に従っているふりをしながら密輸の手伝いをしてもらうことが、彼の手を最大限に生かせる方法だと思った。ごめんね、いつも。



「今からそのことを手紙に書きます。どうかそれを、運んでいただけませんか?」



ウェルさんに渡して帰ればいいのかもしれないけど、何度も同じ街に行くと見つかるリスクも高まると思った。するとウィルさんは私の問いかけに大きくうなずいて、「分かった」と言ってくれた。



「この近くを通る信頼できる配達員に渡そう。きっとレルディアまで、運んでくれるはずだ。」



リオレッドの道は全部私の道だって、アルが言ってくれた。だからきっとこの遠く離れた地からでも、手紙はパパの元に届くはずだ。信じる事しか出来ない私は「ありがとうございます」と言って、ウィルさんと同じようにうなずいた。



「あ、あの…。」



するとその時、静かに座っていたマージニア様が声を出した。彼はやっぱりじぃじのような威厳はなくて、でもかと言って前みたいに目が合わないような臆病さもなかった。



「リア様にまでご迷惑を…。本当に、僕の力不足で…。」



臆病さは確かになかったけど、彼はすごく申し訳なさそうだった。

それもそうだろう。兄弟げんかに国を巻き込んでいるような状態だから、申し訳なくなっても無理はない。



「本当に、そうです。」



だから「そんなことありません」なんて上辺の言葉は言うのをやめた。するとみんなまた驚いた顔で、私の方を見た。



「私たちはあなたのために、密輸という罪を犯します。そして今現在も私は不正に入国していますので、もうすでに犯罪者なんです。」



彼のために、彼を守るためにすべてを捨てたカルカロフ家のために、私は頼まれてもないのにここに来た。だからこれが恩着せがましいセリフだってことくらい、充分わかっている。



「ですが。」



でももう私は踏み出した足を止められない。話し出した言葉も、もうしまうことが出来ない。


私って、イノシシみたいなやつだな。



「あなたさえ負けなければ、私達は犯罪者にならなくて済みます。罪に問われなくても済みます。」



マージニア様さえ負けなければ、私達のすることは"密輸"ではなくなる。全部リオレッドを救うためにやったことだって、言い訳することが出来る。




「だからどうか、負けないで。」



私はこの計画に、家族をみんな巻き込んでいる。

ディミトロフ家もサンチェス家も、みんなを巻き込もうとしている。



だからあんなクソに屈してもらっては、私が困るんだ。



「私達のためにも。リオレッドのためにもです。」



そしてそれはきっと、いずれリオレッドのためにもなる。

これを乗り越えれば、リオレッドはどんどんいい国になっていく未来が、私には見える。


この言葉が彼のプレッシャーになることは分かっている。でも言わずにはいられなかった。あなたに期待している人がたくさんいるんだよって、知ってほしかった。



「はい。」



するとマージニア様は、とてもはっきりと返事をしてくれた。

ずいぶんたくましくなったなと偉そうなことを思いながら、「ありがとうございます」とお礼を言った。


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