第23話 作戦会議



「密輸のルートを作るためにも、今後の皆さんの動きを知りたいんです。」



そして呆れているみんなは置き去りにして、次の話を始めた。すると空気を読んだかのように、ゾルドおじさんが地図を切り株に広げてくれた。



「おじ様、ありがとう。」



3兄弟よりずっと、おじさんの方が物分かりがよかった。私がにっこり笑ってそう言うと、おじさんも心なしか穏やかな顔でうなずいてくれた。



「僕たちは…。」



するとウィルさんが最初に口を開いた。ついに観念してくれたかと思ったら嬉しくなってしまった。



「あちらがどんどんノールに向かって進軍してくると予想している。多分次に攻めるのはシギモだ。」



シギモというのは、最初に私達が到着した海岸から少しノール側に来たところにある小さな街だ。ウィルさんはそう言いながら、シギモの街に丸印を付けた。



「相手はまだ僕たちの居場所まで掴んでいない様子だけど、バレるのも時間の問題だろう。ゆっくり作戦を立てるためにここに逃げ込んだが、いつまでもジッとしているつもりはない。」



あのクソが動き出すという情報をつかんでから、急いで逃げてきたっていうのは何となく予想がつく。でも私なんかがここを探し当てられたんだから、ウィルさんの言う通り見つかるのもきっと時間の問題だ。



「そして出来るだけ被害の少ない場所で、向こうの一番大きな軍とやり合うつもりだ。」

「それって…。」


避けては通れない道だと、分かっている。

でもいつか直接対決しなければいけない日がくることを直接聞いてしまうと、心が一気にざわつく感じがした。



「リア。」



多分一気に不安な顔になった私を、ジルにぃが呼んだ。呼ばれたのに反応してジルにぃの方を見ると、彼はとても勇ましい目でこちらを見ていた。



「直接対峙しないことには、この戦いは終わらないよ。」



その通りだと思う。そんなことは分かっているし、騎士がそういう仕事だっていうことも、ちゃんと理解しているつもりだ。でも、やっぱり危険なことが分かっているところになんて、本当は行ってほしくない。



「ただ被害は最小限にしたい。だから相手と対峙するのはココだ。」



私のその気持ちなんか無視して、ウィルさんは話を続けた。

ウィルさんがここだと言って指をさしたのは、ノールの北西方向にある大きな荒野だった。



「僕たちを攻めるために、ある程度の戦力は確保してくると思う。それに小さな街をじわじわ攻めていくことでこちらの様子もうかがっているはずだから、すぐには大きな軍を出さないとみている。」



情報が少ない中で、しっかりと分析して機を伺っているウィルさんは本当にすごいと思った。でも今こうしている間にもどこかが攻められていることには、きっと心を痛めている。



「そうだな…。2週間程度、だろうか。その間に僕たちもしっかりと体制を整えるつもりだ。」



2週間。長いようでとても短い期間だと思う。

でもその2週間の間にも相手が小さな街をどんどんつぶしていったとしたら、路頭に迷う人がどんどん増えてしまう。



「シギモの次にはどこになるのか予想できる?」



さっきウィルさんが丸をしてくれたシギモの街を指さして、私は言った。するとウィルさんは少し驚きながらも、相手が攻めると予想できる場所を次々と丸していった。



「ねぇ、クラドさん。」



そして私は後ろで待っていたクラドさんを呼んだ。まさか呼ばれると思っていなかったらしい彼は、驚いた顔でこちらを見た。



「この辺りで停泊できそうな海岸はある?あるなら全部教えて。」



ウィルさんもジルにぃもアルもみんな驚いて私を見ていた。でも多分レイヤさんの生息地とかを知っている彼の方が、リオレッドの海岸のことについても詳しいのではないかって思った。



「ここ。あとここ。」



予想通り、クラドさんは的確に場所を教えてくれた。私は彼の教えてくれる通りに、指をさされた海岸を丸していった。



「リア、そいつの言う事を…。」

「大丈夫です。」



聞いていいのかと、ウィルさんは聞こうとしていた。でも私は聞かれる前にはっきりとそう言った。



「この方たち、意外と真面目なんです。私に嘘を教える理由もないしね。」



みんなは信じられないって顔をして私を見ていたけど、そんなことを気にしている時間もなかった。私はとにかく密輸するものをどう効率的に運ぶかを考えながら、丸と丸を線で結んで行った。



「あの…。」



運ぶべき道が見えてくると、解決すべき課題も見えてきた。

誰のことも置き去りにして話を進めようとしていた私は、一旦手を止めて顔を上げた。



「パパに手紙を渡す方法って、何かありますか?」



しばらく黙っていたと思ったら急に質問をした私をみんなが見ていた。

みんな同じようにキョトンとした顔をしているのが、何だかちょっとだけかわいくみえた。


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