第22話 やっぱり私の仕事と言えば
「ありがとうございました。」
休憩いただきました~!みたいなノリで部屋に入ると、みんな厳しい顔をして座っていた。私はとりあえずマージニア様やおじ様への挨拶をやり直して、促されるまま座った。
「早速ですが、私そんなに時間がなくて…。」
「お前まさか黙って出てきたわけじゃ…。」
「て、てへっ。」
まさかというトーンで話すアルの言葉を否定できなくて、とりあえずとぼけてみた。するとみんな息を合わせたみたいに、大きなため息をついた。
「あ、でもラルフ様にはお伝えしてあります。」
「エバンには?」
みんなの呆れた気持ちをなんとか立て直そうとして言い訳すると、アルがまた鋭いところをついてきた。
「て…てへっ…。」
無駄だとは分かっていてもその問いにもとぼけて返事をすると、みんな絵にかいたような困り顔で私を見ていた。
「多分今頃テムライムで内戦が起こってる。」
「だな。」
「早く帰れ。まじで。」
そしてまた息を合わせたみたいに、3兄弟が同時に言った。さすが兄弟!とまたおどけてみせようかと思ったけど、そろそろ怒られそうだからやめておくことにした。
「ってことなので、とりあえず今回は状況把握のために来ました。」
「今回、は?」
話を何とか戻そうと言うと、また痛いところを突かれた。
さっきから言葉を発するたびに痛いツッコミを入れられるけど、ここで折れる私ならリオレッドまで来てなんかいない。
「皆さんに会って聞こうと思ってましたが、ここに来るまで色々見てきたので、だいたいは把握してきたつもりです。」
状況を把握するために、話を聞きたかった。
でも聞くまでもなかった。あの壊れた小さな街を見ただけで今の状況は充分に理解できた。
―――やっぱり百聞は一見に如かずだ。
「ですが…。」
状況が把握できないことには何もできないと思っていた。
来たことで来なければ分からないことが、ちゃんとわかった。
「正直なところ、私に出来ることが浮かばないの。色んな人に迷惑をかけてここまで連れてきてもらって申し訳ないけど、出来る事なんて本当にない。」
でも状況を把握できた今なら分かる。
この内戦を止めるために私に出来ることは、本当に何もない。
私はもうテムライムの人間だし、私が出てきたところであのクソが止められるわけではない。最強の合気道も身につけてないし、私は魔法使いでもない。
それでも…。
「ただ一つを、除いては。」
止めることは出来ない。止めるための手助けをすることも出来ない。
でも止めるだけが出来る事ではない。それ以外に私に出来る事と言えば…。
「密輸、です。」
道を作る事だ。
それは今までと何も変わらない。私がいつもやってきた、いつも通りの"私に出来る事"だ。
「これからきっと、今まで住んでいた場所で暮らせなくなって路頭に迷う人が増えます。食料や医療品、そして皆さんが戦うための武器なんかも不足していくと思います。」
きっと今も、食べるものや住むところを失って路頭に迷っている人たちが出ている。内戦が進めば進むほど、そういう人たちが増えていくんだと思う。
「国のトップの争いで国民を餓死させることが一番よくないです。ケガをして人を死なせることも、当然よくないです。だから私はその人たちのための道を作ろうと思います。」
いつか来るリオレッドの平和のために、犠牲になる人を減らせる道を作ろう。それが私にできる唯一のことだ。
「本当は難民の方をテムライムに受け入れたいくらいですが…。さすがにそこまでする権力はありません。そしてもちろんテムライム王に許可をもらおうなんて思っていません。なんせこれは"密輸"ですから。」
ちまちま物資を送るより、人を受け入れた方が手っ取り早いことは分かる。でもさすがに王様にまで迷惑をかけるわけにいかないから、秘密裏にうごかなくてはならない。
これが"密輸"と呼ばれるのであれば、"犯罪"と呼ばれるのであれば、私は喜んで犯罪者になろう。
「エバンさんやラルフ様にはお許しを得ないといけないと思いますが…。」
私だけならいいけど、密輸をするとなれば私だけの力では成し遂げられない。だからディミトロフ家には家族ぐるみで犯罪者になってもらわないといけない。
あれだけエバンさんに"騎士王"でいてほしいと思っていたのに、こんなことを思うのはきっと矛盾だ。それでも、私は自分でも私を止められない。
「道を、作らせてください。」
常識を超えた正解を、私も出してみたい。
そしてその道の先に何があるのか、私も見てみたい。
「それではリアが…。」
私の勢いに押されて何も言葉を発しなかったジルにぃが、小さく言った。私は彼が言葉を言い終わる前に、首を横に振った。
「私はもう、ここにいる時点で犯罪者ですから。」
私はここにいる時点ですでに、密輸を始めてしまっている。
私の初めての密輸が自分自身だなんて、想像もつかなかった。
「リアはこうなると…」
「もう言う事を聞かないよね。」
「ほんっとこいつは昔から…。」
しばらく黙っていた三人が、また同時に声を出した。
息がぴったりなことがおかしくなって、思わず笑ってしまった。
「ありがとう。褒め言葉として受け取るわ。」
どこが褒め言葉なんだって思ったけど、突っ走っている私にはそれが称賛にしか聞こえなかった。私はまだ呆れている三人に笑いかけて、「話をすすめましょ」と軽快なトーンで言った。
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