第21話 改めまして、ごきげんよう


「えっと…。ご、ごきげんよう。みなさん。」




しばらくして落ち着いてから、手遅れの挨拶をした。するとみんな同じように微笑ましい顔をして、挨拶を返してくれた。



「君って子は本当に…。こうなると思ったから止めたのに…。」

「止まらないってのも、分かってたんでしょ?」



本当に呆れた顔で言うジルにぃに、得意げな顔で言った。するとジルにぃは大きなため息をついて「まぁ」と言った。



「何となくそう思ったけど、まさかリオレッドまで来るとは…。それに君を襲った輩を連れてくるなんて想像もつかなかったよ。」

「でしょ。」



別に褒められてないのに、やっぱり得意げに私は言った。するとみんな「はぁ」と息を合わせたみたいにため息をついたけど、それでも私は得意げな気持ちだった。



「私まで失礼してすみません。ホホホッ。」

「ポルレさん。無事でよかったです。」



ウィルさんはポルレさんを見て一瞬驚いた顔はしていたけど、すぐに受け入れて挨拶を交わしていた。もしかして私なんかよりウィルさんの方が、彼の扱いに慣れ始めたのかもしれないと思った。



「あのね、時間がないの。とにかく早く帰らなきゃいけなくて…。それでね。」

「お前。」



前のめりで話を始めようとする私を、後ろに立っていたクラドさんが止めた。彼が私の肩を持ったからか、アルはギロっとこちらをにらんでいた。



「とりあえず少し寝かせてもらったらどうだ。」



でもそんなことも気にすることなく、クラドさんは言った。

確かにここに来るまで移動を含めた2日半くらいの間、私はあまり寝られていない。でものんきに寝ている時間なんてある気がしなかった。



「でも…。」

「1時間だけ、寝ておいで。」



断ろうとする私の言葉を遮るように、ウィルさんが言った。驚いて彼の方を見ると、ウィルさんもジルにぃと同じように困った顔で私を見ていた。



「ちゃんと起こすから。少しは寝ないと頭が整理できないでしょ。」



そう言いながら半ば強引に、ウィルさんは私をその部屋から出そうとした。私はそこでやっと観念して、みんなの言う通り少しだけ寝ることにした。



「1時間で起こしてね!アル!絶対だよ!」



部屋を出る間際に、アルにそう伝えた。するとアルはやっぱりぶっきらぼうな様子で、片手をあげて「わかった」と答えた。

ウィルさんは押し出すみたいにして部屋から私を出して、そして隣のツリーハウスの扉を開けた。



「ほら。ここなら大丈夫だから。」

「はい…。」



その部屋の中には、ベッドとまではいかないけど、ござみたいなものがいくつか敷かれていた。ウィルさんはそのうちの一つに私を導いて、両肩を押し付けてそこに座らせた。



「リア。」



そしてウィルさんはまるで子どもを呼ぶみたいな穏やかな声で私を呼んだ。なんだかここ数日間ずっと殺気立っていた心が、一気に穏やかになる感覚がした。



「本当に大丈夫だから、安心して寝て。」



なんの大丈夫かは分からなかったけど、全部の意味が込められている気がした。私はやっとそこで素直にうなずいて、柔らかいとは言えない枕に頭を付けた。



横になる事だって、もう3~4日ぶりだ。

日にちの感覚があまりなくなっているけど、ちゃんと1週間以内に帰れるだろうか。



「おやすみなさい。」

「おやすみ。」



とりあえず、一旦寝よう。起きてからまた考えよう。

私は入りっぱなしの電源を一旦オフにするためにも、目をそっと閉じた。するとすぐに眠気に襲われて、意識がなくなっていった。






「リア!これ見ろよ!」

「や、やだ!虫、やだ!」



そして私は夢を見た。小さい頃、カルカロフ家でアルと遊んでいた頃の、懐かしい夢を。


あの頃私たちは毎日勉強をして、そして休み時間には走り回って遊んでいた。あの頃から精神年齢が子どもじゃなかった私には走るだけの遊びなんてつまらなかったけど、アルが虫を持って近寄ってきたから、自然と走らざるを得ない状況になっていた。



「アル様、リア様!転びますよ!」



メイサはいつも怒っていたけど、アルはそれでもやめようとしなかった。

そして知らないうちに私もどこかでその遊びを楽しんでいて、いかにしてアルから逃げるかっていう作戦を考えていた気がする。




「きゃあっ!」



精神年齢は大人でも体は子どもだったから、私はよく転んでいた。作戦を考えながら走っているから余計に転びやすくなっていた気もする。



「リア!」



その度アルは、さっきまで自分が追い回していたことも忘れて心配そうに近づいてきてくれた。いつもメイサより先に私のところに走ってきて、そして立ち上がらせてくれていたと思う。



「こら、アル。またリアをいじめてるのか。」



そしてたまにジルにぃが帰ってきて、そんなアルを叱っていた。ジルにぃに怒られるとアルは毎回泣きそうな顔になって、小さな声で「ごめんなさい」と言う。



「…リア。」



そんな風にカルカロフ家で遊んで家に帰ると、ママがいつも「おかえり」を言ってくれた。そして少し時間が経つとパパが帰ってきて、「リア」と優しく名前をよんで抱きしめてくれた。



「…リア、起きろ。」



幸せだった。とても平和で、本当に幸せ。

大事な人がいつもそばにいてくれて、みんな楽しそうに笑っていた。本当に愛おしくて、大切な時間だった。



「リア。」

「…は、い。」



そこで私はやっと目を覚ました。目を開けると目の前には心配そうな顔で覗き込んでいるアルがいて、その顔が昔転んだ後の私を見る目と一緒だった。



「夢、見てたの。」

「夢?」



不思議そうな顔をして、アルが言った。

1時間しか寝ていないのにすごく頭がクリアになった感覚がして、言う事を聞いてよかったと思った。



「昔カルカロフ家で遊んだ時の夢。楽しかったよね。」

「あ、ああ。」



何の話をしているんだって戸惑った顔で、アルが返事をした。

アルが戸惑っている間に私は大きく伸びをして、勢いよく立ち上がった。



「よし、行こう。」



あの日常を取り戻す手伝いをしに、行こう。

私の切り替えにアルはまだ驚いている雰囲気があったけど、私はそれも無視して立ち上がった。頭の中の不安とか迷いは、もうどこにもいなくなっていた。

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