第20話 みんな大っ嫌い
「うわぁ、すごい…。」
しばらくけものみちみたいな道を進んでいくと、木で作られた門の向こうには広場みたいな開けた場所があった。そしてところどころに古いツリーハウスみたいな建物が立っていて、団員の人たちが休んでいたり何やら準備をしている姿が見えた。
「ほんとに…。」
「すごい…っ。すごいですね!研究室にはピッタリだ!ホホホッ。」
ここで、暮らしてた人たちがいたんだ。
しばらく使われていないらしいから雑草みたいなものは生え放題だったけど、掃除をすれば今でも暮らせそうな空間がそこには広がっていた。ポルレさんもすごく興奮した様子で何度も「すごい」って言っていた。今度はココに住み着きかねないなと思った。
「あれ…。あれって…っ?!」
「リア様…?!」
「ごきげんよう。」
感心しながら歩いていると、私に気づいた団員の人たちがさっきのアルと同じ顔をして私を見ていた。まるで幽霊でも見ているような顔で見られるのはやっぱり面白かったけど、いるはずもない私がここにいるんだからそれも仕方がないことだと思う。
「兄さん。」
みんなに挨拶をしているうちに、一番奥にポツリとあるツリーハウスにたどり着いた。アルが扉の外から小さな声で言うと、その中から「入れ」という声が聞こえた。
「兄さん、驚かないで…」
「ジルにぃ!!!!」
アルが何か言い終わる前にジルにぃの姿をとらえた私は、大きな声で彼を呼んだ。横でアルが「シーッ」っと言っていたけど、もうそんなことは気にならなかった。
「リア?!?!??!?」
扉はとても小さかったのに、ツリーハウスの中はとても大きかった。20畳くらいのスペースの真ん中に大きな切り株があって、それを囲むようにしてカルカロフ家の偉い人達やテレジア様やデイジーさん、そして奥の方にはマージニア様が座っていた。
「リ、リ、リア…?!??!」
「リア様…?!」
「リアちゃん!!!!」
まるでコントみたいに、みんなが私の名前をよんだ。
いい大人の女としてここは丁寧にあいさつをすべきシーンなのかもしれないけど、私は誰とも目を合わせることなく、ジルにぃの前へと迷いなく進んだ。
「ジルにぃなんて…っ。」
ジルにぃの少し悲しそうな目を見たら、一気に涙があふれた。自分でも自分がどんな感情なのか分からなくなって、ジルにぃの胸を思いっきりたたいた。
「ジルにぃなんて、大っっっっ嫌い!!!!!!!」
両手で何度もジルにぃの胸を叩いて言った。抱えていた感情が、おさえていた感情が全部爆発して、自分でも止められそうになかった。
「勝手にあんな手紙送って…っ。私がどんな気持ちだったか分かる?!?」
叩く手を止めて、ジルにぃを見上げた。すると彼も泣きそうな目で私を見ていた。
「何もできない?何もするな?そんなのぜんっぜん優しさなんかじゃない…っ!」
優しさだ。すべては私を守る、優しさだ。
そんなこと分かってる。分かってるけど、その優しさがとても悲しかったんだよ。
「何があったって守るんでしょ?!だったら置いてかないでよ!置いて行ったら、守ることなんて出来ないじゃない!」
ルミエラスから私を連れ戻してくれたあの日。ジルにぃは私を何があっても守ると言ってくれた。その同じ感情を、私はジルにぃに持っているのに。
どうして突き放したの?
「それにウィルさんもそう!あなたが私をルミエラスから連れ出したんでしょ?!だったら最後まで責任取ってください!」
私に甘えすぎていたって、あの時言ったじゃん。一人に背負わせていたって、言ってくれたじゃん。一緒に背負って、くれたじゃん。
なのにどうして?どうして私には、背負わせてくれないの?
「アル!!あんたが言ったんだよね?!?リオレッドの道は全部私の道だって!!私の道は私が勝手に使う!誰にも止める権利なんてないんだから!!!!」
私が繋いだ道だって、言ってくれたじゃん。全部私の道だって、アルが言ったんだよ。隣の国への道だって、私の道なんでしょ?
「お願いだから…。」
全部私のために、あなたたちが言ってくれたことだよ。
私のためを思って、いつも私を守って、言ってくれた言葉たちだよ。
私は守られてきた。でも守られるだけで何もしないなんて、そんなの耐えられない。私にだって守らせてよ。遠く離れていても気持ちはいつもそばにいて、同じ景色を見せてよ。
「私の道を使って、勝手に遠くに、行かないでよ…。」
そうか私、寂しかったんだ。
頼ってもらえないことが、大切な人が勝手にどこか遠くに行ってしまいそうなことが、寂しかったんだ。
守りたいなんて、そんなのは建前だ。
ただ、ただ一緒に歩きたかった。歩かせてほしかった。それだけだったんだ。
「嫌い…大嫌い…。ジルにぃもウィルさんもアルもおじ様もみんな嫌い…。」
「ごめん。」
やっと落ち着いた私を、ジルにぃはそっと抱きしめた。私はまたジルにぃの胸を軽く叩いて、「嫌い」と言った。
「リア。」
すると後ろにいたウィルさんが近づいてきて、私の頭に手を置いた。
そしていつしかアルもこちらに近づいてきて、今度は私の背中に手を置いてくれた。
「みんな…っ。みんな嫌い。大嫌い。もう知らない。絶交する。」
涙でぐちゃぐちゃになった顔を上げた。するとよく似た顔の三人が、みんな悲しい顔をして私を見ていた。
「でも…っ。」
勝手に一人にされて、すごく寂しかった。優しさだとわかっていても、受け入れられなかった。ずっと一緒に歩いてきたはずなのに、水臭いじゃないかって思った。そんな風に置いていく人たちなんて、嫌いだって思った。
でも、それでも…。
「生きててくれて、ありがとう…っ。」
生きてここにいてくれて、またこうやって抱きしめてくれて、本当にありがとう。本当によかった。
しばらく涙が止められそうになくて、その場で泣き続けた。みんなのぬくもりを全身で感じながら、本当に生きていてくれてありがとうと心の中で何度も繰り返した。
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