第19話 思わぬ人との再会


「ん…?」



するとしばらく進んだところで、アルが歩みを止めた。


もしかして私たちのせいで居場所がバレたとか…?

ぼんやりそう考えたけど、考えたところで何もできない私は、とにかくアルとクラドさんの後ろに身を隠した。



「誰だ。」



何も見えない茂みに向かって、アルは言った。するとアルが見ている方の茂みで、小さく何かが動いた。



「わ、わ、私は怪しいものでは…。」



動いた茂みから、男の人の声が聞こえた。なんとなく聞き覚えのある声な気がしないでもなかったけど、こんなところで知り合いに出くわすわけがない。気を張っているせいで感覚がおかしくなっているんだろうか。

私はその声の主が姿を現すまで、気を抜かずそちらの方向をジッと見つめた。



「出てこい!」

「は、はい…。」



その人は素直に返事をした。

返事の仕方や戸惑っている様子から、きっとこの人が敵ではないんだなってことが分かって少しは安心した。でもアルやクラドさんが警戒している限り、私も警戒を解くわけにはいかない。


自分でここに来るって決めたけど、ずっと気を張っていなきゃいけないのって本当に疲れるなって自業自得なことを考えた。



「え…。」



でも次の瞬間、ついに姿を現したその人を見て、私は驚いて腰を抜かしそうになった。その人は少し焦った様子で両手を挙げながら、「ホホホッ」と困った顔で笑っていた。



「ポ、ポルレさん…っ?!?」

「あれ?リア様じゃありませんか。こんなところでお会いできるなんて光栄です。ホホホホッ。」


なんと茂みから出てきたのはポルレさんだった。

彼はボロボロの服にボサボサの髪をして、体にたくさんの虫かごをかけていた。

まさかな、と思いながら、恐る恐る私はまた口を開いた。



「もしかして、虫を追って…?」

「ええ。気になる子を追いかけていたらここに…。途中でなにやら大変なことが起こってたみたいですが、どうかしたんですか?ホホッ。」



何やら大変なことって…。っていうか"気になる子"って女の子のことみたいに言わないでくれよ。

ツッコミどころが多すぎて、疲れている私はもう何も言葉が出せなくなった。せめてため息くらいついておこうと大げさに「はぁ」と言うと、アルが驚いた顔で私の方を振り返った。



「リア、この人もしかして…。」



ドレスを作るとき一度くらいはポルレさんを見ているだろうアルは、驚いた声で言った。私は内戦にも気づかず虫取りを楽しんでいた彼にいよいよ呆れながら、「うん」とだけ返事をした。



「あら…っ?もしかしてカルカロフ家のお坊ちゃまでしょうか。その節はお世話になりました~っ。ホホホッ。特にお兄様のウィル様には私がリオレッドに長期滞在するための色々な許可を取っていただき…。」



私たちが呆れつくしている事なんて気にすることもなく、ポルレさんはペラペラと話を続けた。しばらくは固まったままその話を聞いていた私達だったけど、今はこんな風にのんきな話を聞いている場合じゃないとやっと思い出した。



「とりあえず危険なのでついてきてください。」



ここまでは幸いにも被害に遭うことなくたどり着けたらしいけど、今後も安全に"虫取り"が出来るとは限らない。カルカロフ家に保護してもらうかどうかは別としてとりあえず連れて行こうと決めた私は、アルに「いいでしょ?」と言った。




「ああ。なんでもいいけど…早く行くぞ。」

「き、危険…?よく分かりませんが…。分かりましたっ、行きましょう。ホホホッ。」



すると少し飽きれた様子のアルはそう言って、また道なき道を進み始めた。ポルレさんはわたしの言う通り素直に後ろをついてきていたけど、歩いている道中ずっと「なんですか、このかわいい子は?!」とか「連れて帰りたいですね~~」とか、一人で話続けていた。



私もこの人くらいのんきでいられたら…。

ポルレさんが本当にのんきなのかのんきな振りをしているだけなのかは分からなかったけど、ずっと気を張っていた今の私には彼がすごくうらやましく見えた。


かと言って彼をみならってのんきに笑っていようとも思えない状況を充分把握している私は、とにかく置いて行かれないようにアルの背中を追い続けた。

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