第15話 リオレッドで、何が…
「もうすぐっす!」
そして宣言通り、1日も経たないうちにリオレッドの姿が見え始めた。レルディアに行くのだって2日かかるのに、ノールまで1日で行けるなんて思ってもみなかった。
「あの、レイヤさん。生計は、どうやって立ててらっしゃるの?」
素直に気になって、素朴な質問を投げかけてみた。するとレイジさんは「う~ん」と少し悩んだ後、私の方を見た。
「盗みですね!」
「あ、ああ…。」
あまりにも爽やかに言うもんだから、「そうなんですね!」とこちらまで爽やかに答えそうになった。まあ海賊っていうくらいだから、盗みをしていてもおかしくないかと冷静なことを考えている自分がいた。
「あとは漁をして食料を得ることもあるっす!自由気ままに生きてます!」
これだけ早くモノを運ぶ技術や漁をする知恵もあって、それが生かせていないことがとてももったいなく感じた。
「お仕事、しません?」
「え?」
やっぱり相当いかれているらしい私は、こんなところでも商売の提案をし始めた。後ろにいたキス男さんが呆れて「はぁ」とため息をついているのが聞こえたけど、もう誰に何と思われようがあまり気にならないくらいの図太い精神が、私の中に出来上がっていた。
「そうしたらきっと、盗みなんてしないで済みます。」
頭にたくさん疑問符を浮かべたまま、レイヤさんは私を見ていた。私はそんな彼とは反対に、ワクワクする気持ちをおさえてにっこり笑いかけた。
「またそのお話は、次の機会に。」
そんな話をしているうちに、船はどこかの海岸にたどり着いた。リオレッドに着いたとはいえ港から堂々と入国するわけにもいかない私達は、降りるのにちょうどいい場所を探して、そこで船を降りた。
「それじゃ4日後、また迎えに来るっす!」
思ったより船を早くつけてくれたおかげで、リオレッドでの滞在時間がグッと伸びた。感謝を込めて「ありがとうございます」と言っているうちに、レイヤさんはまた船を出発させてあっという間に遠くへと消えて行った。
「行くぞ。」
小さくなっていくレイヤさんをのんきに見送っている私に、キス男は言った。そして崖みたいな海岸の隙間から、森の方へと足を進めて行った。
「方向が分かるの?」
「ああ。」
キス男はそう言って、振り返ることもなくどんどん先へ進んでいった。私は男たちに置いて行かれないように、必死に後を追った。
「そう言えばあなた、お名前は?」
ここまできて名前を聞いていないことをやっと思い出した私は、転ばないように足元をしっかり見ながら聞いた。するとキス男は「フッ」と声を出した笑った後「クラド」とだけ言った。
「クラドさん、ね。」
名前も知らない山賊にお願いをするなんて、やっぱり私はいかれている。でも私一人ではこの道なき道を進むことも出来なかったと思うと、私の判断は間違っていなかったと思う。
まだ信用したわけではないしいつ裏切られるかも分からないけど、エバンさんが仕事を回したりたまに見回りしたりしているから、何かない限り裏切って捨てられるようなことはないだろう。
心の中で自分に何とかそう言い聞かせて、しばらく森と岩の間みたいな道を必死で進んだ。
しばらく進んでいくと、木々の隙間から小さな建物がいくつか見えた。まだここがリオレッドなのかどうかもあまり認識できていない私は、恐る恐るその街の方を見てみた。
「え…。」
その小さな街にある建物は、ほとんどが壊されているかほぼ崩れているかのような状態だった。煙突から上がっていると思っていた煙は建物が壊れておきた砂ぼこりとか火事がおこっていることによるもので、今襲われましたと言っているようだった。
「なんで…。」
私は引き込まれるようにして、その街の方へ一歩足を踏み出した。
すると物陰からこっそり様子を見ていたクラドさんが、私の手をグッと後ろに引いた。
「まだ誰か残ってるかもしれない。ここは遠回りしてノールに向かおう。」
クラドさんが何を言っているかは理解できた。
でも目の前の衝撃的な映像に、私は言葉を失っていた。
のどかで穏やかなリオレッドで、今何が起きているのか。
レルディアがこんな状態になっていてもおかしくないとどこかで覚悟していたはずだったけど、こんな田舎街まで被害を受けているのかもしれないと思ったら、体の底から震えが止まらなくなり始めた。
「お前ら。」
私が震えている間に、クラドさんは部下の人たちに何やら指示を出した。すると部下たちは歯切れよく返事をしたあと、街の方へと向かっていった。
「何を…。」
私にはいくなと言ったのに、どうしてあちらの方に向かわせたのか。純粋に浮かんだ疑問を口にすると、クラドさんは「
「ここは確かにノール近くではあるが、厳密に言うとノールまでは少し距離がある。
「拝借、って…。」
覚悟はしてきたはずだけど、私はまた"盗み"という罪をここで犯すことになる。すごく嫌な感じはしたけど、ここでイヤだと言って拒否が出来る状況ではないことも、十分わかっている。
「よし、乗れ。」
部下の人たちはあっという間にウマを3頭連れてきた。そしてクラドさんは慣れた様子でウマに乗って、私のことも後ろに乗せてくれた。
―――どうか、どうか無事でいて…。
私の前に乗っているこの人は私にとって怖い人なはずなのに、腰をつかんでいる手が自然と強くなっていた。自分でそれが分かっていても誰かにすがっていたくて、手の強さを緩めることが出来なかった。
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