第14話 海賊にご対面


そこからはキス男含め3人の男たちがついてきてくれた。

彼らの案内する近道を通っていたら、数時間で海の見える海岸みたいなところにたどり着いた。


もちろんそこは港なんかじゃない。ただの海岸だ。

こんなところに誰かいるのかと疑っていると、キス男は懐をゴソゴソと探って、短い木の棒みたいなものを取り出した。



「何それ。」

「見てろ。」



男はそれを口にくわえて、思いっきり息を吹き込んだ。するとその棒は、鳥の鳴き声のよな甲高い音を出した。



――――笛、みたいなものか…。



伝達手段の少ないこの世界で、遠くにいる誰かに自分の居場所を伝えるものにはピッタリだなと思った。でもこんな音一つで海のどこかにいる海賊さんがここに来るのかと疑ってしまうくらい、その音はか細く海に響いた。



「来るの?これで。」



しばらくたっても案の定誰の姿も見えなくて、不安になった私は思わず聞いた。するとキス男はニヤリとまた笑って、「ああ」とだけ言った。



「ほんとに?こんなの聞こえると思えないんだけど…。」



そこでやっともしかして前金をだまし取られたんでは?と疑い始めた私は、しつこく男に問いただした。でも男は私がなんといっても、「待て」というだけだった。



「私急いでるって言ったよね。こんなところで足止め食らってる場合じゃ…」




笛を鳴らしたのなんてフェイクで、もしかしてここで2~3日船が来るのを待つことになるんじゃ…。

待っている間にどんどん不安が育ってしまった私がさらに問い詰めようとすると、キス男はニヤリと笑って私を見た。



「ほら。」



そして今度は海の方をまっすぐ見て、得意げな顔で言った。驚いてその目線の先をたどると、海の遠く向こうの方に小さな船の影が見え始めた。



「うそ、でしょ…。」



そしてその船は、驚くようなスピードでこちらに近づいてきた。そして私が驚いている間に、ついには海岸にまであっという間にたどり着いた。




近くで見ると、その船は私がルミエラスから逃亡した時よりもずっと小さい船だった。多分10人くらいしか乗れないようなサイズで、船の上にはすでに3人の男が乗っていた。



「アニキ!お久しぶりです!」



そしてそのうちの一人が、キス男を見て行った。キス男を"アニキ"と呼ぶその男は、こんがり肌が日焼けした肌が健康的で、とても体の大きな人だった。



「ああ。お前は相変わらずうるさいな。」



親し気な雰囲気で、二人は雑談をし始めた。

この人が知り合いの海賊ってやつか。"海賊"になんて初めて会った。会う前は大きな帽子をかぶってマントみたいなものを羽織っている男を想像していたのに、その男はなんて言うか…。農業でもしていそうな軽装に、とても爽やかな笑顔でキス男とお話をしていた。



「このお嬢さんを、ノールまで運んでくれ。2日以内に。」



雑談がひと段落したころ、キス男が私を前に差し出して言った。

海賊さんは私を上から下までなめるように見た後、小さな声で「アニキ…」と言った。



「いいっすけど…。途中で味見してもいいやつですか?」

「ねえ。大丈夫なの?この人。」



爽やかだと思っていたのに、そうではないセリフを言ったことに怒りを感じてキス男を見た。すると彼は豪快に「ははは」と笑って、海賊さんの方を見た。



「お客さんだから、手は付けるな。」

「くぅ~~~!もったいね~っ!めちゃくちゃ美味しそうなのに…。」



大げさに残念がった男を、思いっきり不審な目で見た。

すると海賊さんは私を見てキリっとした顔をした後、キス男の方に目線を移した。



「アニキの頼みならもちろん引き受けます。ほら。乗って。」



そして船から私に手を差し伸べた。

この手を取って本当に大丈夫なのか。疑いの気持ちでキス男の方を見上げると、「はやく」と言ってせかされた。



「よろしく、お願いします。」



一応この人たちが私を密輸してくれるんだから、お願いをしておかなければ。すると海賊さんはにっこり笑って、「任せてください!」と言った。なんだかちょっとだけ、パパに似ている気がした。



「俺、レイヤっす!」



そして無事私が船に乗ったことを確認すると、海賊さんは爽やかに自己紹介をしながら右手を差し出してきた。私も恐る恐る自分の手を差し出して、彼の手を握った。



「アリア・カル…。」



普通にいつも通りの自己紹介をしようとした。でも服装も汚くてマントもかぶっている私は、きっとエルフには見えていないはずだし、今は出来るだけ"カルカロフ"を名乗らない方がいい気がした。



「アリアです。」



ただの"アリア"になって、そう言った。するとレイヤさんはにっこり笑って、「リアさんっすね!」と言った。



「んじゃ、出します!」



そしてキス男が乗ったことを確認して、レイヤさんが言った。その言葉にうなずいた瞬間、レイヤさんはすごく勢いよく、船を出発させた。



「きゃあっ。」



大きな船に乗ったことしかなかった私は、その反動で思わずよろけた。すると後ろに立っていたキス男さんが、私の体を支えてくれた。



「揺れますよ!1日でついてみせますから、振り落とされないように!」



いたずらな顔をしたレイヤさんはその宣言通り、体感したことのない速さで船を動かした。最初は少し怖かったけど、風を切っている感覚はウマに乗っている時と少し似ていた。



今日も海は穏やかだ。太陽に反射して、キラキラ輝いている。



いつしか今の状況を気持ちいいと感じてしまっている私は、キス男の言う通り本当にいかれてしまったのかもしれない。でも元々私が正常だったことなんて、この世界に来てからは一度たりともなかったんだろうなと思った。

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