第26話 義理…なんてものなのか?
「山賊が、どうして…。」
やっぱりどこか悲しい顔のまま、エバンさんは言った。するとジルにぃも同じように悲しい顔で「ああ」と言った。
「逃げたやつらから、円で雇われたらしい。でも意外と義理堅いやつらで…。雇い主の名前は決して口にしないんだ。」
山賊とは言えども、生きていくためには円が必要なんだろう。
自給自足の生活をしていてもどこか限界があって、円を得るために今回のことを起こしたっていうのは、確かに納得のいく説明だ。
「義理堅い…か。」
でも雇い主の名前を口にしないのは、本当に"義理堅い"からだろうか。
相手は自分たちを裏切って、逃げてしまうような奴らだ。相手が逃げている時点で、もう円が得られる望みは薄いのではないか。それにいくら義理堅いと言っても、言わない理由は、それだけなのだろうか。
「円以外に、何かあるとしたら…。」
もし私を誘拐したことに円以外の目的があるんだとして、その目的のせいで雇い主の名前を口に出来ないんだとしたら、この事件はまだ終わっていない。また別の何かが起こってしまうかもしれない。
「あ、あと。リアやうちの団員たちに使われた薬品だけど…。詳しくはまだわかってないけど、相当研究し尽されているものみたいだ。」
「研究…。」
山賊というんだから山にある植物とかには詳しいんだろうけど、だからと言って薬品を作る"研究"をしているのかと言ったら、とても不自然な気がした。この世界で"研究"が出来るような知識のあるような集団と言ったら…。
自分が思っているよりずっと、背後にあるものが大きい気がしてきた。だからと言って今私が持っている情報はあまりに少なすぎて、これ以上考えたところで犯人が誰かの目星は付けられそうになかった。
「あの…。」
私があれこれ考えている間も、エバンさんとジルにぃは今後の対策を話し合っていた。そんな真剣な会話の間を縫って声を出した私を、二人は同時に見た。
「捕まっている男に…。直接質問させてほしいの。」
私を見ていた二人は、同時に驚いた顔をした。あまりにも息がぴったりで、真剣な場面なのに笑いそうになってしまった。
「リア、それは…っ。」
「うん。わかってる。」
数日前に暴力を振るわれた男に会いに行くなんて、正気じゃないと思われてもしょうがない。自分でだってそう思う。まだ怖いって気持ちは残ってる。二人が止めてくれる気持ちだって分かる。
でも…。
「守って、くれるんでしょ?」
私にはテムライム騎士団長のエバンさんが付いている。それにリオレッドの騎士王、そして騎士団長もついていてくれる。
「私が目の前に行くだけで、動揺すると思うの。動揺すれば本音だって引き出しやすくなる。」
それに私は、自分の口には自信がある。
私なら引き出せるっていう根拠のない自信があった。
するとそれを聞いた二人は、またほぼ同時に「はぁ」とため息をついた。
「リアには本当にかなわないね。」
「ですね。」
ほら、やっぱり口はうまい。
二人を言いくるめたことでまたさらに根拠のない自信が湧いた私は、得意げに「でしょ」と言った。
「その代わり。」
一人で得意げになっている私に、エバンさんはくぎを刺すように言った。何を言われるか不安になって恐る恐る彼の方を見ると、エバンさんは真剣な目で私を見ていた。
「僕もリアの横に座らせてもらうよ。」
「嫌です」という理由がない提案に、私は素直にうなずいた。するとジルにぃもエバンさんの言葉を、「そうだね」と言って賛成した。
「リオレッドからはウィルについてもらおう。」
ジルにぃは続けてそう言った。
自分でやると言っておきながらその提案に少しホッとしているのは、やっぱり思っていた以上にあの出来事がトラウマになっているからだろうか。
「よろしく、お願いします。」
「無理はないようにね。」
「はい。」
最後の一押しと言わんばかりにジルにぃがそう言ったのに、私はまた素直にうなずいた。すると二人は少し満足したような顔をして、うなずき返してくれた。
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