第27話 事情聴取やってみます!


その後すぐに、ジルにぃは私が直接犯人に質問する機会を作ってくれた。


そしてその当日、私は約束通りエバンさんとウィルさんと一緒にその部屋の前に立った。部屋の中にはすでに、ジルにぃとアルが待機してくれているはずだ。



「リア、本当に大丈夫かい?」

「ええ、ありがとうございます。」



みんな心配そうに私を見ていた。私も実際会うってなるとやっぱり少し怖い気もしたけど、近くで騎士団長たちが見ているんだから、何か危害を加えられるようなことをされるはずもない。


私は自分を落ち着けるためにも「ふぅ」と深呼吸をして、ドアを開けてくれるエバンさんとウィルさんの後をついていった。




部屋の中は、想像していた"警察の部屋"って感じのつくりをしていた。もちろん壁とか床とかはコンクリートや鉄骨で出来ているわけじゃないんだけど、簡単には壊せそうにない分厚い壁と頑丈そうなドア、そして中には机が一つ置いてあって、マント男が椅子に括り付けられて座っていた。



「ごきげんよう。」



私はマント男に出来るだけ丁寧にあいさつをした。

すると私が入って来るとは思っていなかったのか、ヤツはすごく驚いた顔で私を見た。



作戦成功だ。



私は出来るだけ堂々とした姿勢で、椅子に座った。ウィルさんも「やあ」なんて気の抜けた挨拶をしながら、私の隣に腰掛けた。



「改めまして、アリア・ディミトロフと申します。この間はとてもお世話になりました。」



嫌味をこめて言った。男は私をギロっとにらんでいたけど、情けない姿で睨まれたところで一つも怖い事なんてなかった。



「なんてお呼びしたらいいかしら。」



前世を通しても、人を尋問した経験なんてない。

でも私はサスペンスとかミステリーが大好きで、よくドラマを見ていた。何かのドラマで刑事さんが最初は警戒心を崩すといい的なことを言っていたのを思い出して、名前を聞いてみた。



「まあ、言わないですよね。」



それでも男は何も答えなかった。これも予想の範囲内だ。私はにらんでいる男の目を見てにっこりと笑った後、「それではマントさんとお呼びしますね」と言った。



「ところでマントさん。あなた、ボスじゃないでしょう?」



その言葉を聞いて、少し眉毛が動くのが分かった。

冷静になっていると素人でも感情って読み取れるもんだなと思いながら、「やっぱり」と言った。



「そんな器じゃない気がしたので。」

「なに?」



警戒心を解くなんて思っていたはずなのに挑発して言ったのは、私の小さな反抗心みたいなものだ。でも今まで黙り込んでいたマントさんが言葉を発したから、結果オーライだと思った。



「それでは質問させてください。私を誘拐したのは、なぜですか?」



本当はもっと雑談みたいなことをして、話してくれるように仕向けた方がいいのかとも思った。でもこの人が雑談に応じるとも思えなかったから、私は唐突に聞いた。すると男は少し自分を落ち着けるように、一呼吸置いた。



「円のためだって、言ってんだろ。」

「円のため…ねぇ。」



私はわざとらしく、腕を組んだ。

すると男はただうつむいて、静かに話を聞いていた。



「だったとしたら、今でも黙っている理由はなに?もうあなたたちの雇い主が逃げてしまったことくらい、分かってるわよね?ここで黙ってても何も意味がないような気がするの。」



今思っていることをとても正直に言った。すると男は無反応のまま、ただうつむいて座っていた。でも私はそれも無視して自分語りを進めた。



「そうねぇ、円じゃなったら…地位?」



正直のところ、その線は薄いと思っていた。

私を誘拐して得られる地位なんてそんなものは一つもないし、それこそ黙っているメリットがなにもない。案の定男は私の言葉を聞いても、何の反応も示さなかった。



「地位じゃないか~。ウィルさんはなんだと思います?」



そこであえてウィルさんに話を振った。

すると察しのウィルさんは「そうだな~」と言って考える仕草を取ってくれた。



「何か弱みを、握られてるとか。」



確かにそうだ、と思った。

未だにこの人たちは何か弱みを握られていて、黙っていることでその"弱み"となっているものを、守っているんだとしたら…。



「そうだね…。例えば…人質、とか。」



ウィルさんの言葉で、男の眉毛がピクリと動くのが分かった。私は分かりやすくニヤケそうになるのを何とかおさえながら、「なるほどね」と言った。



「それは…確かに何も話せないわね。」

「ちが…っ!」



男は慌てて否定をしたけど、その否定こそ肯定に見えた。

ウィルさんも同じことを思ったみたいで、「そうか、人質か」なんて納得した様子で言っていた。



「家族を人質に取られているのかしら。それともお仲間?」



答えないとは思ったけど、一応聞いてみた。すると予想通りマントさんは何も言わないまま、ただうつむいているだけだった。



「まあいいわ。誰でも。」



このままお互い黙っていても意味がないと思って、そこで話を切り上げた。すると男が少しムッとしたのがわかった。


最初は無反応だった相手が言葉に反応して少しずつ顔に感情を表しているという事は、こちらのペースに乗せることが出来た証拠みたいに思えた。私は人生初の事情聴取がこんなにうまく行っていることに半分ニヤケながら、次の作戦を頭の中で組み立てた。



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