第25話 アイツらの正体


次の朝、久しぶりにエバンさんに再会した子どもたちは、みんな嬉しそうに彼に飛びついた。やっぱりパパでしか得られない安心感ってあるんだろう。


私は4人がワイワイと騒いでいる様子を見て、本当に良かったと思った。



トントントンッ



朝ご飯を食べてゆっくりしていたその時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。もしかしてアルかなと思って「は~い」と元気に答えると、扉からはジルにぃが入ってきた。



「リア。」



ジルにぃは部屋に入ってきて、そのまま私の方に寄ってきた。私はジルにぃに抱き着いて、「ごめんね」と言った。



「謝らなくちゃいけないのはこちらの方だ。」



ジルにぃはそう言って、エバンさんの方を見た。そして深く頭をさげて「本当にごめん」と言った。



「いえ、やめてください。」



エバンさんは慌てて、ジルにぃの顔をあげさせた。顔を上げてもジルにぃは申し訳なさそうな顔をしていて、私の胸まで痛んだ。



「騎士団の恥だ。本当にごめん。」

「ジルにぃ、やめて。ジルにぃが謝ると、私が申し訳なくなる。」



そもそも私がリオレッドに帰ってきたせいで、今回のことが起こった。私さえ帰らなければ、アルや団員の人たちが危険にさらされることもなかった。それなのに謝られたら、もっと申し訳なくなってしまう。


私の顔を見てそれが本音だって悟ったのか、ジルにぃは「分かった」と言って笑顔を向けてくれた。



「エバン君、ちょっと話がしたいんだけど。」



そしてジルにぃはエバンさんに体を向けて言った。エバンさんは真剣な顔をしているジルにぃの方を見て、「わかりました」とだけ言った。



「私も聞いては、ダメですか?」



二人が襲った人たちの話をすることはなんとなくわかった。ずっとあの人たちが誰か気になっていたから、すかさずそう言った。



「でも…。」



ジルにぃは私を見て、すごく困った顔で言った。

私に聞かせたくないって気持ちも理解できるけど、知らないまま過ごす方がよっぽど気持ち悪い。



「聞きたいんです。」



恐怖心が消えたわけじゃない。今日だって夢にアイツらがでてきた。でもやっぱり知りたい気持ちは変わりないと思って、ジルにぃをしっかりと見て言った。



「分かった。」



すると私の目を見て大丈夫と判断したのか、ジルにぃはそう言って近くにあった椅子に座った。私もベッドにしっかり座り直して、ジルにぃがなにを語るのか真剣に耳を傾けた。



「実はもう一つ、謝らなければならないことがある。」



ジルにぃはとても真剣な顔をして言った。私も思わず真剣な顔になって、ジルにぃを見つめ返した。



「アイツらの中の一部を取り逃がしてしまった。どうやら万が一の時を予測して、船をもう一台手配していたみたいだ。」



きっとあのキス男も取り逃がしたうちの一人なんだろうなと予想が付いた。冷静な分析をしている私に、ジルにぃはもう一度「本当にごめん」と謝った。



「大丈夫です。」



すると私が謝らないでという前に、エバンさんが力強く言った。何が大丈夫なんだと驚いていると、彼はとても決意のこもった目でジルにぃを見ていた。



「そいつらが生きていようがいまいが、もう絶対に襲わせませんから。」



そしてその強い目のまま、エバンさんは言った。その目を見ていたら本当に大丈夫な気がしてきて、私はエバンさんと同じようにジルにぃを強い目で見た。


そんな私たちの気持ちを汲み取ったのか、ジルにぃは少し困った顔で笑った後「ありがとう」と言った。



「それで…。誰かというのは、分かったんでしょうか。」



エバンさんは続けてジルにぃに聞いた。するとジルにぃはまた困った顔で笑って、「うん」と言った。



「結論から言うと、アイツらは全員テムライムの人間だった。リアがリオレッドに来るという事はディミトロフ家の警護も緩くなると予想して、リオレッドで計画を実行したそうだ。」



そこまでは何となく予想が出来ていた。

テムライムにいるときは外に出るとき、少なくとも2人ほど警護の人がついてきてくれる。本当は嫌なんだけど誰もついていないってわけにはいかないらしい。

でも今回はリオレッドに帰るだけだからと、私はそれを断った。でも大きな間違いだったなと、今更ながら思った。



「目的は、私を売る事、ですか?」

「ああ。逃げたやつらの目的はそこにあると言っても過言ではないだろう。」

「逃げた、やつらの?」



ジルにぃの言い方が気になって、思わず聞いた。するとジルにぃは「うん」と言って私の方を見た。



「リアも感じたかもしれないけど、多分今回捕まったやつらと逃げたやつらは全く別の集団だと思う。」




ただ自分の欲望に忠実に動こうとしていたキス男に対して、マント男の目からはどこからか"うしろめたさ"みたいなものが見えていたのを私も感じていた。やっぱりそうかと思ってうなずいていると、ジルにぃはやっぱり悲しそうな顔で座っていた。



「捕まったやつらは、山賊のような集団だそうだ。」

「山賊…。」




山の奥の奥の方には、山賊がいるって話は聞いたことがある。

でも山賊とは言っても最近はとても穏やかで、めったに顔も見せないし乱暴なこともしないから様子を見ているという話も聞いていたはずだった。



「そうですか…。」



すると今度はエバンさんが、とても悲しそうな表情で言った。仕方がないことなんだけど部屋の空気がとても重くて、この空気の中冗談の一つでも言ってやろうかって無謀なことを考えている自分がいた。

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