第24話 ちがう、強くなったんだ
「じゃ、俺帰るわ。」
エバンさんが来てくれたからか、アルはあっさりと帰る支度を整えて言った。多分私が寝ている間、アルは自分は寝ずに私のことを守ってくれていた。
「ありがとう!」
伝えきれないほどの感謝を、アルには伝えなきゃいけなかった。なのにアルはすごくあっさり片手をあげて、振り返ることもなく帰って行った。
「リアのことが…。」
その背中を見て、エバンさんはポツリと言った。
エバンさんの方を見上げてみると、アルは去っていったのに、まだ入口の方を見つめていた。
「本当にリアのこと、大好きなんだね。」
「なに、それ。」
なんで今そう思ったんだろう。疑問に思って首を傾げたけど、エバンさんはそんな私を見て笑うだけだった。
「渡さないけどね。」
そう言ってエバンさんは、ゆっくりベッドに腰掛けた。そしてもう一度、私の頭を撫でた。
「もう、家から出したくない。」
「家にいた時襲われたんだけど。」
ひねくれたことを言うと、エバンさんは「それもそうか」と言った。そしてそのまま自分も横になって、ギュッと私を抱きしめた。
「あのね、カイとケンがね。」
「うん。」
エバンさんは私の背中をトントンしながら、話を聞いてくれた。もう眠くてたまらなかったけど、まだまだ話をしていたかった。
「もっと強くなるって、言ってくれたの。」
「そっか。」
「自分たちだって怖かったはずなのに。えらいよね。」
エバンさんは「うんうん」と話を聞いてくれた。私はエバンさんの胸にしがみつくみたいにつかまって、話し続けた。
「ルナもね、痛いの痛いの飛んでけしてくれたんだよ。やさしいよね。」
たくましいことは言ってくれたけど、きっと子供たちは不安で心細くてたまらないはずだ。パパが来てくれたことでその不安もちょっとは解消されるはずだから、子どもたちを早く、エバンさんに会わせたかった。
「たくさん、褒めてあげてね。」
そして頑張った子どもたちを褒めてあげてほしかった。
たくさん褒めて、頑張ったといってあげてほしかった。
するとエバンさんは「もちろんだよ」と、穏やかな声で答えてくれた。
「それでね、それで…」
「リア。」
まだずっと、話していたかった。伝えなきゃいけないことがある気がした。それなのにエバンさんは続きを話そうとする私の言葉を遮った。
「大丈夫だから。ずっとここにいる。誰にも入らせない。」
"子供たちが"と言っていたけど、本当は一番不安だったのは私なのかもしれない。エバンさんにそう言われてそれに気が付いた私は、自分が情けなくなって「ふふ」と笑ってしまった。
「ほんと?」
嘘をつくはずもないのに、念のため聞いた。
するとエバンさんは穏やかに笑いながら「うん、ほんと」と言った。
「前もこんなことあったね。」
ホームシックになったときのことを思い出した。
するとエバンさんも同じことを思い出したみたいで、「懐かしいね」と言って笑った。
「私…、エバンさんがいないともう生きていけないみたい。」
寂しかったり不安だったり。
そういう気持ちは今まで、自分一人で消化できていた気がする。
でもエバンさんに出会って恋をして、私はすごく、弱くなってしまったのかもしれない。
「僕もだよ。」
するとエバンさんは困ったように笑って言った。
「僕なんてもう落ち着かなくて、海に飛び込もうかと思ったくらいだよ。」
エバンさんが船の上でうろうろしているのが想像できて、おかしくて笑ってしまった。するとエバンさんはそんな私を見て、「こら」と言った。
「団員もいた手前、平気なフリしてたつもりだけど…。」
エバンさんはこう見えて、団員の前だととても凛々しくてビシッとしている。最初それを見た時はこんな顔も出来たんだって驚いた記憶がある。
「きっと出来てないね。」
「そうだね。」
でも多分今回は、ビシッと出来ていなかったと思う。
最初に扉から入ってきたエバンさんを思い出せば、そのくらい簡単に想像がつく。
「君がいないと、僕は僕でなくなりそうだ。」
その言葉を聞いて、一番最初エバンさんに告白されたとき、言われた言葉を思い出した。
"君のどこまでも澄んだ瞳を見ていたら、君のまっすぐな言葉を聞いていたら、僕はなににも飲まれることなく、ずっと、自分でいられる気がするんだ。"
立場が上になっていくにつれて、誰かのために何か新しいことを始めるにつれて、私たちはこうやって、闇に飲み込まれることがある。それでも自分が自分でいられるのは、弱さを見せられる人がいてくれるからだ。
「弱くなったんじゃないんだ。」
大切な人が増えたから、もっと頑張りたいって思えるようになった。この人たちを幸せにするために、自分に出来ることをしたいって思った。
大切な誰かのためっておもったら、頑張る力が湧いてきた。きっと私たちは大切な人が出来て、すごく強くなった。
「弱いとこ見せられる人が、出来ただけだったんだね。」
でも強くなった分感じるようになった弱さを見せる人が出来たから、弱くなったと感じたんだ。
「そうだね。」
エバンさんは納得したようにそう言ってくれた。
これからどうなるかなんてわからない。でも少なくともエバンさんが、優しくて強い彼でいられるように、これからもずっとそばにいようと思った。
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