第23話 ”漢”の友情って美しいな


…バンッ!



どのくらい寝たのか分からない。

寝ていたはずの私は、扉が勢いよく開く音で目覚めた。窓の外はもう真っ暗で、少なくとも今が夜ってことはわかった。


こんな夜に扉が勢いよく開くってことは、せっかく生き延びたのにまた敵襲なのか。どんだけ恨まれてんだ、私。


寝起きだからか、意味の分からないことを考えてしまった。

少しずつはっきりしてきた頭で扉の方を向いてみると、全開になった扉に、見慣れた人のシルエットがあるのが見えた。



「…リ、アっ。」



そこに立っていたのは、エバンさんだった。彼はパパよりもっと必死な表情をして扉の前に立っていた。エバンさんの顔を見ただけで色んな感情があふれ出してきて、それと一緒に涙もとめどなく流れ始めた。



「リア…っ。」



エバンさんは私に負けないくらい、たくさん泣いていた。そして涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま飛びつくみたいに、私に抱き着いた。



「ごめん、ごめん…っ、僕は…っ。」



自分がそばにいられなかったから、守れなかったと思っているんだろう。きっと自分のせいだと、思っているんだろう。私は彼の言葉の続きを聞く前に、首を横に振った。



「全部…っ、私のせいなの…。私が悪かったの、だから…っ。」




どうか、自分を責めないで。

これ以上エバンさんが自分を責めたら、今度は私が自分を責める。私のせいで彼のことまで泣かせてしまったと、そう思ってしまう。



するとエバンさんは、抱き着いていた体をゆっくりはがした。そして自分の両手で私の頬を包み込んだ。



「何も悪くない。君は何も。大丈夫だ。」



なんの"大丈夫"なのかはわからなかったけど、そう言われただけでどこかホッとしている自分がいた。大丈夫な気がしている自分がいた。



まだ何も解決していない。あの人たちが誰かだって、分かっていない。でももう、大丈夫なんだ。



「…うんっ。」



何にも代えられない安心感に満たされた私は、エバンさんに抱き着いた。

エバンさんは私が落ち着くまで背中を撫でて、何度も「大丈夫だよ」と言ってくれた。でもそんなエバンさんが私よりずっと、震えているような気がした。





私が落ち着いたところで、エバンさんは私をゆっくりとベッドに倒した。

そして頭を優しくなでてくれた後おもむろに立ち上がったと思ったら、部屋の隅で立っているアルのところへと歩いて行った。



「エバン…。本当に、ごめん。」



近づいてきたエバンさんが言葉を発する前に、アルが言った。まるでアルは怒られた子供のように、しゅんとした顔をしていた。



「リオレッドで起こった事件だ。誰が起こしたかという事の前に、リオレッドの騎士として事件を未然に防げなかった。そのせいでお前の家族に怖い想いをさせてしまった。リアを…危険にさらしてしまった。傷つけてしまった。」



もう一度「本当にごめん」と言って、アルはエバンさんに頭を下げた。エバンさんはそんなアルに一歩近づいて、「アル」と言った。



エバンさんの背中が、なんだか怖かった。もしかしてアルを怒るんじゃないかって思った。

でも今回の事件の原因はどう考えても私で、アルがいなければもっとひどい事件になっていてもおかしくなかった。


私が無事に今ここに寝ていられるのだって全てアルのおかげだって伝えようとした次の瞬間、エバンさんはアルに深く頭を下げた。



「本当に、ありがとう。」



予想外の言葉が出てきたことに、心底驚いた。それはアルも同じなようで、すごく驚いた顔をしていた。



「お前がいなきゃどうなってたことか…。」



事件のことを詳しく聞いていた様子のエバンさんは、アルに頭を下げたまま言った。アルはそんなエバンさんの肩を持って、「やめてくれ」と言って頭をあげさせた。



「お互い…。」



アルは少しうつむいて小さくそう言った後、今度は決意に満ちた目でエバンさんを見た。さっきまでは悲しそうな顔をしていたエバンさんも、燃える目でアルを見つめ返した。



「お互い、まだまだ修業が足りないな。」

「だな。」



二人はそう言って、固い握手を交わした。

小さい頃からライバルだった二人の友情が、私の目にはとても美しく映った。



それは"男"の友情っていうより、"漢"の友情という感じがした。

私は自分が怖い思いをしたとかそういうのも全部忘れて、美しい二人の握手をずっと見つめ続けた。




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