第19話 かわいそうな人たち
そしてその後私は、そのままの姿で放置された。
殴られたお腹もつかまれ続けていた髪の毛も痛くて、ただ無気力なままその場に横たわっている事しか出来なかった。
「よし、行くぞ。」
そしてしばらくした頃、マントの男が言った。
するとその取り巻きの男たちが私に近寄ってきて、大きな袋みたいなものを私にかぶせた。
「きゃ…っ。」
「大人しくしろ、痛いことをされたくなければ。」
そしてまるでサンタさんのプレゼントみたいにして、私は袋に詰められた。何をされるか分からない恐怖に合わせて周りが全く見えないことへの恐怖も湧いてきて、体がさらに震えているのが自分でもわかった。
周りが見えなかったからどこに向かうのかは分からないけど、とりあえず誰かに抱えられて移動している事だけは理解できた。
そのままの状態で、多分10分くらいの時間が経った。するとどこからか海の香りと波の音が聞こえ始めて、どうやらここが港らしいってことは分かった。
「きゃあ…っ!」
ここが港だということを認識した途端、運ばれていた私は固い板みたいな場所に落とされた。荷物は破損なく丁寧に船積みするべきだと説教してやろうかと思った。
「さて。」
こんな状況でも余計なことを考えていた私を、誰かがまた持ち上げた。そしてどこかに運ばれたと思ったら、袋の隙間から小さな光が見え始めた。
「ここに結んでおけ。」
袋から出される。そう思ったのに、最初に出されたのは頭ではなく手だった。そして袋から私の縛られた手を出して男は、私の手をそのままどこかに括り付けているようだった。
腕を結び終わるころ、ゆっくりと全身が袋から出された。
するとそこは小さな部屋のベッドの上みたいなところで、小さな窓から差し込む月明り以外の明かりは何もついていなかった。
「お楽しみの、始まりだ。」
なるほど。ここで色んな男にヤられるのか。
さっきそのまま犯されなかったのはきっと船の時間が迫っていたからで、これからどこに売られるのかも分からないけど、その間中ずっと誰かに…。
私が全てを察した頃、男たちは部屋から出て行った。すると出て行って一息置く間もなく、ドアからまたあのキス男が入ってきた。
「ようこそ、お嬢様。」
男は不気味に笑いながら一歩一歩こちらに近づいてきて、自分のボタンを外し始めた。そして顔をギリギリまで近づけて、「ふふふ」と声を出して笑った。
「お前から、キスしてみろよ。」
屈辱以外の何ものでもなかった。どうしてこんなに気持ち悪い口もくさい男に自分からキスをしなくてはならないのか。
この期に及んでキスすることをためらっていると、男は「いいのかな」と言った。
「お前の娘…。確か一人、エルフの見た目をしてたよなあ?クウォーターはあまり高値がつかないが…。背に腹は代えられん。ハーフと偽って、売り飛ばしてしまおうか。」
「やめて。」
自分でも驚くくらいに、冷静な声が出た。すると男はニンマリ笑って、「分かるよなあ」と言ってきた。
「ええ。」
男の一言でなぜかすごく冷静になった私は、さっきまでのためらいが嘘みたいに男にキスをした。すると男はそれをいいことに、かぶりつくような下手で痛いだけのキスをし始めた。
「いいねぇ。」
唇を離して、男は嬉しそうに言った。そしてさっきつけられたブラジャーの切込みに手を入れて、「ははは」と笑った。
「お嬢様の品格がみじんも感じられないねぇ。」
「フッ。」
もう開き直ったのか諦めたのか、どんな気持ちなのか自分でも分からなかった。でもなんだかこいつらのことが可愛そうに思えて、気が付けば笑いがこみあげてきた。
「何笑ってんだ。」
するとキス男は急に怒った顔になって言った。私は大ピンチを迎えているっていうのに、笑いが抑えられなかった。
「かわいそうだな、って思って。」
正直に思っていることを言った。
すると彼は「は?」と言って、今までで一番怖い顔をした。
「自分より弱いものを痛めつける事でしか、目的を達成できないんでしょ?」
こいつらが私をどこかに売り飛ばしてお金を稼ごうとしていることは分かった。
でも自分より弱くて太刀打ちできないと分かっている人を暴力で痛めつけてお金を稼ぐなんて考え方、どう考えても貧相でしかない。
「こんなやり方しか出来なくて、本当にかわいそう。」
何かか目的を達成しようと思ったときに暴力っていう方法を選ぶなんて、本当にかわいそうだ。私たちには考える頭があって考えを話す口だってあるのに、お金を稼ぐために誘拐をするなんて方法しか浮かばないのは、かわいそうでしかない。
「いくらでもやりなさいよ。別になんだって耐えられるわ。」
開き直った私は、大ピンチの状況に見合わない笑顔で言った。するとボスは私の顔を見て、怒りに震えた顔をした。そしてこぶしを握って、右頬を思いっきり殴った。
「…っ!」
人生で初めて人に殴られた。人生って、もちろん前世を含めて初めてだった。
ついに何となく、目の前がボーっとしてくる感じがあった。それでも心の中で突き出したこぶしを、私はもうおさめることが出来なかった。
「品格?そんなものいつでも捨てられる。」
殴られたことなんてなかったかのように、私は話を続けた。
今まで品格なんて、持ち合わせた覚えがない。私はいつだって人の言う事を聞かない、破天荒で豪快な女だ。
「私のちっぽけな品格で何かが守れるなら安いものだと思わない?」
もし周りが私に品格を感じてくれているとして、それを捨てることで大切な人たちを守れるんだとしたら、そんなものはいらない。捨ててやる。
「お前がそういうなら、好きにさせてもらおうか。」
「お前もさっきお願いしてたことだしなぁ」と言って、男はブラジャーの切込みに手をかけて、思いっきりそれを破った。そして男はあらわになった胸を、自分の手で思いっきり握るようにしてつかんだ。
ああ、私。
この世界ではすごくキレイな体だったのに。
エバンさんしかしらず、死んでいくはずだったのに。
ごめんね、こんな女で。
今回はもう、捨てられてしまってもおかしくないや。
全部全部、今まで破天荒に生きてきたツケだ。
天使さんよ。
死ぬよりむごい事されようとしてるけど、今回は助けてくれないの?
出来るだけ無感情になるために、頭でたくさんのことを考えた。
目の前には相変わらず怒りに震えながらもにやけた男の顔があって、全身の鳥肌はとまらなかった。
ごめんなさい。
何に対する謝罪かはわからないけど、謝らなくてはいけない気がした。
考えている間に、男は今度は私のパンツの方に切り込みを入れた。いよいよ終わりだと思った私が心を無にしようと思った次の瞬間、部屋の外で誰かのうめき声が聞こえた気がした。
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