第18話 今までのツケ



「お話してくれて、ありがとうございます。」



ピンチを脱出出来たわけではないけど、少しは状況が把握できた。この人たちの裏にいるものが何のかは分からないけど、そいつらが帰って来るまでにとりあえずここを出なくては。



「ではここから…っ」

「お前ら、いつからそんな仲良くなったんだぁ?」



一緒に逃げ出しましょう。

そう言おうとしたその時、倉庫の奥の暗闇の方から、不気味な声が聞こえてきた。



――――まずいっ!



私がそう思った頃には、私にキスをしてきた男がAさんに殴りかかっていた。



「…ぐっ。」



Aさんは殴られた反動で、思いっきり床に倒れこんだ。



「やめてよ!あなたたち仲間でしょ?!」



いてもたってもいられなくなった私は大声をあげた。するとキス男はニヤリと笑って、私の方を見た。



「仲間…?」



男はニヤニヤしたまま、Aさんの髪の毛を掴んだ。



「仲間になんてなったおぼえ、ないけどなぁ?」



男はそう言って、Aさんを床に放り投げた。そしてそのまま右足で、思いっきりAさんを踏みつけた。



「…がぁっ!」

「や、やめて…!」



自分が痛い想いをするより、人が痛い想いをする方がよっぽど見てられなかった。加担はしたけど私に上着をかけてくれた心優しいAさんを、どうにかして守りたかった。



「お願い…っ、何でもする。何してもいいから…っ。」



頭を下げてお願いをした。するといつしか湧いてきた仲間たちが、私を見てクスクスと笑った。



「健気なお嬢ちゃんだねぇ。」



すると男は唐突に奥の暗闇の方に向かって、「来い」と言った。するとその暗闇の方からは、私の首にナイフをあてていたマント男が登場してきた。



「お前がやれ。」




さっきこの男はキス男に殴られて、一度は意識を失っていたはずだ。仲間なはずなのに殴るなんて…。何かおかしい。



頭の中で冷静な分析をしている間に、マント男が私の元へ近づいてきた。そして思いっきり、私のお腹を蹴り上げた。




「ぐ…っ!!!」

「あははははは。」



私がうずくまるのをみて、それを見ていた男たちが大声で笑った。女の腹を蹴って笑いがこみあげてくるなんて、なんて心が貧相なんだと思った。


そしてマント男は倒れている私に近づいてきて、髪の毛を掴んだ。



「顔は傷つけるなよ。価値が下がる。」



するとそんなマント男を見て、キス男がニヤつきながら言った。マント男は一言「分かってます」とだけ言って、腰のところから小さなナイフのようなものを取り出した。



「やれ。」



キス男がそう言ったのを合図に、マント男はナイフで私のブラジャーを切りつけた。すると切りつけかたが浅かったのか、ブラジャーには切込みしか入らなかった。



「ど、どうする気なの…?!何が目的…っ?!」



お腹を蹴られたせいか、上手く大きな声が出なかった。それでも最後の抵抗と思って声を絞り出すと、キス男はニヤッと笑ってこちらを見た。



「売るんだよ。」



男はそう言って、くすくすと笑った。

そしてゆっくりじわじわと、私に近づいてきて目の前でしゃがんだ。



「エルフってだけで金になるのに…。お前はその上顔もいいからなぁ。」



男はそう言いながら、私の顎のラインを触った。そして最後に唇を指でなぞった後、自分の指を私の口に突っ込んだ。



「顔に傷がつくと価値が下がるけど…。体なら売り飛ばす前に治るだろうしなぁ…。」


そして口に突っ込んだ指を、歯茎をなぞるようにして動かした。触れられる度全身に鳥肌が立って、知らないうちに体ががくがくと震えはじめた。



「それに、売るだけじゃもったいないだろう?」



男は今度は私の開いた口から垂れたつばを指でなぞった。そしてその指を自分の口に含んで、ペロッと舐めた。




「売る前に俺たちも、一通り楽しませてもらおうと思って。」




つまり私は今から、誰かに売られてしまうのか。

エバンさんとパパ以外とキスをしたのも初めてだったのに、売られる前に色んな男に遊ばれてしまうのか。



今まで散々好き勝手やってきた。

周りの人たちに甘えて、なにも気にせず好きに動いてきた。今までのそのツケが、全部回ってきたってことか。



どう考えても納得はいかないけど、私が納得しなかったところで今の状況がどうにもならないことだけはよく分かっていた。どうすればいいのかって考えたところでどうしようも出来そうな案も浮かぶわけがなくて、私はただ茫然と男の気持ち悪い笑顔を見つめていた。



「お前らの船は後1時間で到着する。それでこの女も運べ。」



すると私が無気力になったのを確認したのか、キス男は立ち上がってそう言った。今ここでヤられてしまうと思っていた私が少しホッとしていると、男はこちらを振り返ってまたニヤリと笑った。



「あとでゆっくり、味わってやるからな。」



そう言い残して、男は暗闇へと消えて行った。するとキス男が消えたと同時に、マント男は私の髪の毛を手放して、そのまま床へと放り投げた。

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