第63話 え、あるじゃん…!



「リアが今度は何をするのか楽しみだよ。何か案は浮かんでるのかな?」



私の肩の力が抜けたのが分かったのか、エバンさんは私の両肩を持って私と目線を合わせながら言った。

エバンさんに"いつも通り"でいいと言われてから一つ考えが浮かんでいた私は、その言葉に素直にうなずいた。



「あのね。私、シルクロードを作ろうと思うの。」

「し、しるく…?」



驚いたエバンさんの顔は、何だかかわいかった。私は戸惑う彼を置いてけぼりにして、「うん」と自信をもってうなずいた。





「これは、すごい発見だと思うんです。」



そして早速次の日、私はキャロルさんのお店に行った。

いきなり来た私が意気揚々と話を始めたもんだから、キャロルさんはすごく戸惑った顔をしていた。



コガネムシヤマネコのドレスは絶対に売れます。リオレッドでも、ルミエラスでもです。」



リオレッドとの関係に今以上のダメージを与えることなくテムライムのドレス産業の売上を向上させるためのたった一つの方法は、やっぱりテムライム国内で国産ドレスの売り上げを上げること、そしてリオレッドのドレスに対抗できるものを作る事だ。



前の時はディミトロフ家モデルの給仕服を売り出すことで一時的な危機は脱することが出来たけど、今回同じことをしたところで同じ効果はきっと得られない。そう考えた時浮かんだのが、キャロルさんが生産に成功したあのコガネムシヤマネコのドレスだった。



あれからしばらく時間が経ったけど、あのドレスを作るのにはやっぱりすごく時間もお金もかかるという話はすでに耳に入っている。



コガネムシヤマネコの糸を使って作ったドレスをもっとたくさん作るための、今の課題を教えていただけませんか。」



作って売り出そうとしても、時間がかかってしまえば何の意味もない。今はどれだけでも早く問題を解決するために、出来るだけ早くたくさんのものを売り出す方法を考えなければいけない。



そう。私はこのドレスを初めて見た時に思った通り、"ヤマネコロード"を作り出したい。



自分が出来ることをやらなければというやる気に満ちている私は、少し前のめりになってキャロルさんに聞いた。するとキャロルさんはやっぱり驚いた顔のまま私の言葉を聞いた後、「ふふ」と楽しそうに笑った。



「ごめんなさいっ。前と、同じだと思って。」



ごめんなさいと謝りながらも、キャロルさんは笑いながら言った。あまりに楽しそうに笑うから、真剣な話をしに来ているはずの私まで楽しくなり始めた。



「以前ディミトロフ家モデルのお話をいただいた時も、同じ顔をされていたので。つい。」


"前と同じだ"とキャロルさんに言われたことで、"いつも通り"の私でいられていることを実感して少し嬉しくなった。

肩に少し力が入るのは仕方ないけど、でも私は大丈夫。私は自分で自分にそう言い聞かせながら、キャロルさんの言葉を待った。



「そうですね。まずはコガネムシヤマネコの数が足りていません。養殖してすこしずつ数は増やしていますが、1匹からとれる糸はとても少ないんです。」



さっきまで楽しそうに笑っていたキャロルさんは、真剣な顔をして課題を話し始めてくれた。私は一言一句その言葉を聞き洩らさないように、必死でメモを取った。



「あとは、人手です。コガネムシヤマネコから糸となる素材を取って加工するのには、とても手間がかかります。」

「なる、ほど…。」



まさにシルクと同じだな、と思った。

シルクの加工の仕方なんて私は知らないけど、加工に時間がかかる上質な物だからこそ、シルクも前世では高価なものだった。ヤマネコの糸も同様に、あれだけきれいだからこそ、加工に手間暇もかかるものなんだ。



「やっぱり人手か…。」



この世界に産まれて20数年。いつだって人手不足を解消するために動いてきた気がする。そもそも転生する時、天使が"人手不足の世界を選ぶ"なんて言って私を記憶のあるまま転生させたのって、この根本的な部分を解消させるためだったとか…?


いや、あのいい加減な天使に限ってそんな深い考えががあるわけ…



「え…?人、手…?」



ずっと人手不足に悩まされてきたのは事実だ。それを解消するためにという名目で私は航路や陸路の開拓をしたり、階級外の人に仕事をしてもらったりなんかしてきた。

でも私はそこで、今回の問題が露見するきっかけになった出来事を思い出した。



「あるじゃん、人手。」

「え…?」



一人で納得して言葉を発した私を、キャロルさんは不思議そうな顔で見ていた。私はそんなキャロルさんを置き去りにして、自分がこれからどう動こうかの計画を頭の中で立てていった。

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