第64話 思ったよりすぐの再登場ね


「キャロルさん。最近の不況で工場で失業者が出ているというお話は耳にされていますか?」



やっぱりキャロルさんを置き去りにした私は、突っ走ったままそう聞いた。するとキャロルさんは少し引き気味の姿勢で、「ええ」と一言言った。



「その人たちに働いてもらいましょう。」



そもそも今回また貿易摩擦が起きていると私が思い知らされる原因になったのは、失業者の人に誘拐されたからだった。人手不足と聞いてどうして一番に思い浮かばなかったんだろうと、まだまだ考えの足りない自分が嫌になる。



「なる、ほど…。」



素晴らしすぎる提案だと思ったのに、キャロルさんは少ししゅんとした顔で言った。どうしてだろうと思って今度は私が不思議そうな顔をしてキャロルさんをみると、彼女はそれを察したのか「でも…」と小さい声で言った。



「いいので、しょうか…。」

「え…?」



いいに決まっているだろうと思った。まさに仕事の需要と供給のグラフがは一致しているじゃないかと思っていると、キャロルさんは言いづらそうに「あの…」と言った。



「今失業者が出ているのは、トムナ地方の工場の方々なんです。トムナ地方はオルドリッジ家の管轄で…。」

「そう、だった…。」



そう言えば私が誘拐されていた時に見張り役をしていたのも、オルドリッジ家管轄のトナム地方の失業者たちだったことを、私はそこでやっと思い出した。



もともとライバル関係にあるオルドリッジ家とディミトロフ家は、今回の貿易摩擦の件では意見が反対に割れている。


私達ディミトロフ家は、もちろん王様派。王様と同じく。どれだけでも事態を穏便におさめようとしている考えを持っている。今までだってそうだったけど、今回のことでより王様に忠誠を誓い、尽くしている一家だと思われているんだと思う。実際にそうだし。


そしてご存知オルドリッジ家は、反王様派。というより過激派みたいな言い方をした方がいいだろうか。穏便に済まそうとしていることに対してあまりいい考えを持っておらず、とにかく戦争でも何でも起こしてリオレッドをつぶしてしまおうみたいな考えを持っていると噂でも聞いた。



「それは、やりにくいですね。」



思わず本音が口からもれた。

もうしばらくは関わりを持たなくていいと思ったのに、よりにもよってこんなにすぐあの一家の名前が出てくるなんて…。しかもこないだめちゃくちゃ小さな反抗をしてきてしまったってこともあって、やりづらくて仕方がないなと思った。



「やりにくいですが…、なんとかします。」



だからと言って見つけた人手を無駄には出来ない。何よりオルドリッジ家にとっても、失業者の問題が解決することは悪い話ではないだろう。キャロルさんの手では何とか出来ないことを何とかするのが、"私に出来る事だ"ってことを強く感じた私は、キャロルさんに笑ってそう言った。



「ありがとうございます。とにかく課題をどれだけでも量産に向かう課題を解決していきたいと思います。」



ここに来たのはやっぱり正解だった。

自分で納得しながらそう言うと、キャロルさんは少し困った顔で「あの…」と言った。



「ご無理は、なさらないように。」



きっとキャロルさんも、私が誘拐されたことを心配してそう言ってくれているんだろう。だから私はキャロルさんにまで心配をかけないようにするためにも、にっこり笑って「はい」と言った。



「大丈夫です。奥の手を使うので。」

「奥の、手…?」



安心させようとして言ったのに、キャロルさんはもっと心配そうな顔になって聞き返した。それでも私は笑顔でうなずいて、「秘密の手です」と言った。



コガネムシヤマネコのドレスをテムライムの名産にしたいと考えています。そのためにはキャロルさんの協力が不可欠です。」



そして私は続けて、"ヤマネコロード"を作るという私の決意を力強く伝えた。するとキャロルさんも決意をこめた目になって、大きく一つうなずいてくれた。



「いつも頼み事ばかりで申し訳ないですが…。よろしくお願いします。」



ドレス産業で摩擦が起きているから仕方ないのかもしれないけど、キャロルさんにはいつも負担をかけている。そう思って言うと、彼女は「いえ」と言って大きく首を横に振った。



「頼み事なんてとんでもないです。リア様にはいつもいいお話を持ってきていただいてばかりで…。」



キャロルさんはとてもかしこまった様子で言った。私が急いで「いえ」と言ってそれを否定しようとすると、彼女はにっこり笑って私をまっすぐ見た。



「私も…自分に出来ることを精いっぱいします。リア様と同じように。」



キャロルさんの言葉を聞いて、少し泣きそうになった。

やっぱり私はどこかで心細く思っていて、本当に大丈夫なのかって心配しているんだろうか。それでもこうやってピンチの度に味方がいるって知れることは、とてもいいことなのかもしれない。



私も負けないように出来ることをしてやるぞという決意をこめて、「はい」と力強く返事をした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る