第62話 そうか、いつも通りでいいのか


そして王様は私が高らかに宣言してきた通りに、リオレッドのドレスに関税をかけるよう指示を出してくれた。するとそれに追随するように、リオレッド側はトマトに関税をかけたけど、しばらくしてもリオレッドでのトマトの売り上げは思っていたよりも落ちなかった。



「今度はイチゴホウレンソウを対象にするそうです。」



すると案の定、あのクソ王は追加で関税を課してきた。

イチゴはトマトに次ぐテムライムの主力商品の一つだから、それが売れなくなるのは確かに痛い。でも…。



「最終的に困るのは、リオレッドの国民です。」



主力商品になっているという事は、リオレッドでそれだけイチゴが食べられているという意味に等しい。イチゴが高くなったからと言ってそれで飢えて死んでしまう人が増えるわけではないだろうけど、価格の高騰が家計を圧迫することはどう考えても明白なことだ。




「こちらの対応は、しばらく様子を見てからにしましょう。」

「そうですね。」



あれから定期的に私はロッタさんと会って、最新の状況を確認することにしている。状況によっては早くまたリオレッドのとの交渉の場を設けないとと思っているところではあるけど、相手の出方を伺っているのは多分あちら側も同じだと思う。




「もどかしいな~。もうこの際王様に喧嘩でも吹っ掛けに行こうかしら。」

「リア。」



家に帰った後、片づけをしながら物騒なことを言う私を、エバンさんは呆れた声で呼んだ。私はこんな駆け引きみたいなもどかしい時間は、性格上あまり好きではない。もうきっぱりとなんでも決めて、さっさと前に進んでしまいたい。



「もどかしい駆け引きは恋だけで充分なのだ。」

「え…?」



自分にとって苦しい状況の中にいる事には変わりはない。

考えれば考えるほど、パパやウィルさんは大丈夫なのかって心配な気持ちにもなる。でも私が心配したところで、状況が回復するわけではないし、何ならむしろ自分の気持ちが病んでしまうだけだから、私はもう半分開き直っている。



でもやっぱり頭の片隅では苦しんでいるらしい私がおかしなことを口にしたのを聞いて、エバンさんは心配そうな目で見つめていた。



「ねぇ、リア。」

「ん?」



目はやっぱりどこか心配そうだったけど、それでもエバンさんは笑いながら私を呼んだ。どうしたんだろうと見つめていると、今度はついに「ふふっ」と声を出して笑い始めた。



「いつも通りで、いいんじゃない?」



どういう事だろうと驚いて、何も返事が出来なかった。

するとエバンさんは私に一歩近づいて、その暖かい大きな手を頭にポンと置いた。



「リアはいつだってその時自分に出来ることを考えて、そしてそれを実行してきたじゃないか。」



エバンさんの言う通りだった。

私はいつだって、自分に出来ることをするなんて偉そうなことを言いながら、色んな人に協力してもらって自分勝手に動いてきた。まるで止まったら死んでしまう動物みたいに、今までだって突っ走って思うように行動してきたと思う。



「確かに今回の状況はとても軽いものだなんていえない。けどリアはいつも通りのことをしたらいいんじゃないかな。」



今現在だって、リオレッドとテムライムの関係は悪い方へと動いているには間違ない。一歩間違えば明日から武力を行使した戦争が起きてもおかしくない状況だと思っている。だからこそ慎重にならなければいけなし、下手に動けないと思っていた。



「リアはいつも通りのことをしたらいい。」



でも違う。確かに関係を乱すようなことは出来ないけど、きっと私にだって出来ることはあるはずだ。



「そっか、いつも通りなんだ。」

「うん。」



自分が心配してもしょうがないと言いながらも、どこかで肩に力が入っていたことにそこで気が付いた。私は変に力が入っておかしなことをしてしまわないためにも、「ふぅ」と息を吐き出してエバンさんの方を見た。



「そして僕がやることも、いつもと変わらない。」



するとエバンさんは、頭に置いていた手を私の頬に移して言った。今回は私なんかより、エバンさんの方がよっぽど冷静そうだって思った。



「リアを守る。それがただ一つ、僕に出来る事だ。」



とても真剣な目をしてエバンさんは言ったけど、それはどう考えても不正解だった。だけどなぜだかその不正解は私の心の中に一気に染みわたったから、きっと今の私にとっては正解の言葉だったんだと思う。



「エバンさん。そこは"国を守る"が正解でしょ?」

「う~ん。」



それでも素直じゃない私は、まじめに訂正して言った。するとエバンさんは少し悩んだあと、「そうだね」と言って笑った。



「でも君を守ることが、国を守ることでもあるような気がして。」



エバンさんが真剣な顔をしてそんなことを言うから、私も思わず笑ってしまった。するとエバンさんも楽しそうにクスクス笑ったあと、優しく私を抱きしめた。



「それはさすがに…。買いかぶりすぎだよ。」

「そう?僕は本気で言ってるけど。」



やっぱりどう考えても買いかぶりすぎだって思ったけど、私はそれ以上否定をしなかった。そしてそれだけ期待してくれているんだから頑張らないとなっていう気力も、どこからか湧いてくる感覚がした。







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