第2話 行ってきます!!!!
時はあっという間に過ぎて、いよいよ自分の二十歳の誕生日がやってきた。
その日が近づいてきても一向に実感がわく気配がなくて心配していたけど、見送りをしに来てくれているたくさんの人々を見ていたら、やっとこれが現実なんだって思えるようになってきた。
「おめでとう、リア。」
「寂しくなるけど…。またすぐ会えるね。」
ゾルドおじさんもジルにぃも、ウィルさんもアルも。今度はみんながお見送りに来てくれた。お嫁に行くっていうのはあの時と同じはずなのに、今回はみんなどこか嬉しそうな顔をしていた。
「食いすぎんなよ、太るから。」
「お前は普通に"元気でな"って言えないのか?失恋したからって…」
「うるせぇ!」
三兄弟はすごく楽しそうに笑っていた。じぃじがいなくなったリオレッドのことを心配していないわけではなかったけど、こんなにたくましい人たちがいれば、この国は安泰だなって思った。
「皆さん、本当にありがとうございました。」
私が何もしないうちに話が進んでいたのも、こうやってすんなりお嫁に行けるようになったのも、きっと私の知らないところでみんなが動いていてくれたおかげなんだと思う。でも何をしてくれたのか聞いても何も教えてくれないだろうから、私はその恩恵をありがたく受け取りますという意味も込めて、深く頭を下げてお礼を言った。
「リオレッドのこと、頼みます。」
「任せて。」
「ここからはライバルだね。」
私たちはそう言った後、目を合わせて笑った。
今回のお別れはお別れではあるけど、なんだかすごく前向きな"お別れ"だった。
「リア様。」
すると三兄弟の後ろから、メイサがひょっこり現れた。私はメイサに近づいて、彼女の両手を自分の両手でギュっと握った。
「あなたに、サンチェス家にお仕えできたこと、私の一生の名誉です。」
メイサはにっこり笑って言った。でも目にはキラキラと涙が光っていた。
「どうかリア様らしい笑顔で、いつも笑っていてください。」
メイサは私にとって二人目のお母さんであり、お姉ちゃんみたいな存在でもある。結婚するのは幸せだけど、離れるのはやっぱり寂しい。会えなくなる分たくさんメイサを感じておこうと、そのまま力強く抱きしめた。
「本当におめでとうございます。」
まるで小さいときにそうしてくれていたみたいに背中をゆっくり撫でながら、メイサは言ってくれた。私は泣きながら「うん」とだけ言って、今度は体を離してメイサの目をみた。
「パパとママのこと、よろしくお願いします。」
一人娘のくせに、私は隣の国に嫁に行ってしまう。
責任を押し付けるようで悪いけど、パパとママのことを頼めるのなんてメイサくらいしか思いつかない。
メイサは私の気持ちも全て察したようにうなずいて、力強く「もちろんです!」と答えてくれた。
「リア。」
一通りみんなにお別れを言うと、ママが悲しい顔でこちらに近づいてきた。結局ママには、すごく寂しい想いをさせてしまうことになってしまった。
「ママ、ごめんね。一人娘なのに。」
「いいの。ママはあなたが幸せなら、それでいいの。」
ママは悲しい顔をして泣いていたけど、やっぱりどこか嬉しそうでもあった。思い返せば生まれてからここまで、ママには迷惑ばっかりかけて、困らせてばかりだった。
「息子みたいにやんちゃな娘でごめんね。」
「ほんとに。昔からリアには驚かされてばっかりだったわ。」
家を脱走してウマを連れてきたり、パパの仕事を邪魔してみたり。ある日突然王子に殴られて、ケガをして帰ってきたこともあった。思い返せば返すほど、ママにはたくさん余計な苦労をかけた気がする。
「でもそれ以上にあなたからは、たくさんの幸せをもらってたの。」
ママは泣きながら笑って、私の頬を両手で包み込んだ。
「あなたは本当に、自慢の娘よ。賢くて人のことを一番に考えられて、そしてすごく優しい。本当に自慢の、私たちの天使。」
ママがそっと私を抱きしめたのを見て、パパもその上から私たちを抱きしめた。
「リア。本当に、おめでとう。」
「幸せになるのよ。」
この世界の、私の両親。こんな私に溢れんばかりの愛情を与え続けてくれた、かけがえのない人たち。私は伝えきれない感謝をこめて、二人を力の限り抱きしめた。
「ふふっ。今回はちゃんと、たくさん"おめでとう"が聞けた!」
前は一度も聞けなかったおめでとうを、何度も何度も聞けた。
寂しさが全部なくなったわけじゃないけど、みんなにもらった暖かい言葉で胸がいっぱいになって、幸せが涙になってあふれ出してきた。
「みんな本当にありがとう!私、幸せになるから!」
別れを惜しんでいると行きたくなくなってしまいそうだったから、あっさりと切り上げて船へと乗った。そして私を暖かく見守ってくれているみんなに、船の上から手を振った。
リオレッドは最高に暖かい、私の故郷だ。
「いってきます!!!!」
言葉のチョイスが間違っているのかもしれない。
でもお嫁に行くからって、私がここに一生帰らないわけじゃない。
またいつでも帰ってこさせてねと願いを込めて言うと、みんなが口々に「いってらっしゃい」と言ってくれた。
私はみんなの姿が見えなくなるまで、いつまでも大きく手を振り続けた。太陽の光でキラキラと輝いている海も、まるで私をお祝いしてくれているように見えた。
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