第3話 新しい家、新しい家族


「王様…。お久しぶりです。」

「リア。色々と大変だったね。」



テムライムについて早々に、王様に挨拶に行った。すると王様も王妃様も暖かく出迎えてくれて、王妃様は「頑張ったね」と言いながら抱きしめてくれた。



「こんな私がテムライムに来ても…。」

「テムライムは君を歓迎するよ。」



一度結婚がダメになった女なんて受け入れてもらえるのかと、自分の耳で聞くまで心配していた。でも王様は私の話を途中で遮るようにして、にっこり笑って言った。



「僕たちだけじゃない。今のテムライムを作ってくれた君を、国民が歓迎している。テムライムに来る決断をしてくれて、本当にありがとう。」

「王様…。」



思ってもみなかった言葉を言ってもらえて、思わず泣きそうになった。

他の国で暮らすという不安が全て消えたわけではなかったけど、テムライムに来てよかったと早くも思っている自分がいた。



「来週早速結婚パーティーを開くわ!街中それで浮かれてるの。」



するともっと楽しそうな顔をした王妃様が言った。

そう言えばここに着いてから、旗とか飾りとかがいっぱいついているのが見えた。あれが自分のためのものだって初めて知って、くすぐったいような恥ずかしいような気持ちになった。



「さあ、こんなところで油を売ってる場合じゃないだろ。」

「そうね。早く行ってあげて。きっと待ちくたびれてるわ。」



二人はそう言って、私を追い出すみたいにして部屋から出した。

それもそうだ。あの日から手紙の交換をしていただけで、彼の声すら聞けていない。


はやる気持ちがおさえきれなくて、どこかソワソワしながら外に出た。すると王城からでたすぐ目の前のところに、落ち着かない様子で立っているエバンさんの姿があった。



「エバンさん…っ!」



彼の姿を見つけて、私は飛びつくみたいにして抱き着いた。

するとエバンさんはまるで子供を抱き上げるみたいに高い高いした後、ギュッと私を抱きしめた。



「会いたかったよ、リア。」

「私も会いたかった…っ!」



言いたいセリフを遠慮せずに口に出せることが、こんなにも幸せなのかと思った。エバンさんは私をそっと地面におろした後、優しく手を握った。



「行こう。僕の…僕たちの、家に。」



エバンさんは手を握ったままにっこりと笑って、王城の敷地内にあるらしい家の方へと歩きはじめた。

まだ実感は全くない。でも右手からは感じるエバンさんのぬくもりが本物だってことは、確かに実感できていた。



「エバンさん?」

「ん?」

「大好き。」



今まで言えなかったせいか、言えるとなると自然と口から好きがあふれ出してきた。

エバンさんは一瞬私の方を見た後、真っ赤な顔をして目をそらした。



「やめてくれ…。」

「わかった、やめる。」

「いや、そういうことじゃなくて…っ。」

「ふふふ。」



イケメンのくせに、恋愛偏差値がゼロに近いエバンさんをからかうのが楽しくなってしまった。でもこれ以上からかっているとそろそろエバンさんの頭が爆発してしまうかもしれないなと思って、このくらいでやめてあげることにした。



「リア。」

「はい。」

「ずっと。ずっと、そばにいるから。」



今度はこちらの攻撃と言わんばかりに、エバンさんは言った。

ストレートにそんな風に言ってくれることが本当に嬉しくて、握っている手をギュっと強めた。



「離さないから。」

「ううん。離さないのは僕だ。」




私たちはお互い強く手を握ったまま、家まで一緒に歩いた。

テムライムのお城はやっぱり賑やかな装飾でいっぱいで、ここが私の"家"になるんだと思ったら、それだけで心が躍る感じがした。



「緊張してきた…。」



そこからしばらく景色を堪能しながら歩いていくと、あっという間に新しい家の入口へとたどり着いた。


家の大きさはカルカロフ家くらいで、家の前には同じようにキレイな庭が広がっていた。今まで幸せな気持ちでいっぱいのまま歩いていた私だけど、敷地に入った瞬間にエバンさんの両親に会うってやっと実感が湧いてきて、家の前で思わず足を止めてしまった。




「大丈夫だよ。」



エバンさんは私と同じように一旦足を止めて、にっこり笑って言った。そりゃあなたは大丈夫でしょと心の中では悪態をついていたけど、今は幸せな気持ちのままでいるためにも、それは心の中にしまっておくことにした。



「二人ともリアが来るのを楽しみにしてる。行こう。」



エバンさんがそう言って笑うから、私は小さく首を縦に振ってまた歩き出した。



今日からここが私の家になる。

そしてここには私の新しい家族が待っている。



ワクワクと緊張、そして少しの不安が入り交ざって、もう訳が分からなかった。

でもつないだ手の体温を感じているだけでもすごく幸せで、もう何があったっていいやと、本気でそう思った。

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