第四章 トラブルに対処する制度を整備をします!

二十歳 通関制度を作る

第1話 優しくて穏やかな時間


思ってもみなかったプロポーズを受けて心拍数が上がったせいか、その後私の熱は一気に上がってしまった。エバンさんはその場でへたり込んでしまった私を連れて家まで帰ってくれて、そして私がのんきに寝ている間に、パパとママに私と結婚したい意志を伝えていたらしい。



目を覚ましたら、エバンさんはもうテムライムに帰ってしまった後だった。だからこれも全てママから聞いた話でしかないんだけど。



「ルミエラスから帰ってきたっていうのに、今度はテムライムにお嫁に行っちゃうのね。」



寝ていた間の話をした後、ママは言った。当たり前みたいに許してくれているけど、本当にそれでいいんだろうか。



「行って、いいの?」



これでいいのかと不安になって、恐る恐るママに聞いた。ここ数か月でいろんなことがありすぎて、どうやら私は全てに自信を無くしてしまっているようだ。



「今度はちゃんと、幸せになるのよ。」



するとママは、私の頬を優しく撫でながら言った。

今まではママの言う事なんて無視して、自分の好きなように生きてきた。それなのに今回はママがちゃんと許してくれたことが嬉しくて、それと同時に少し切なくもあった。



「ただいま。」



するとその時、ちょうどパパが帰ってきた。

なんだかパパに思いっきり甘えたい気持ちになって、私はベッドの上で両手を広げた。



「リア。」



するとパパはクスッと笑った後、私を優しく抱きしめてくれた。それと反対に私はパパを力強く抱きしめて、「おかえり」と言った。



「エバン君は、とてもいい子だね。リアをすごく大切に想ってくれてる。」



パパは私の背中を撫でながら、優しい声で言った。聞きなれたパパの低い声が胸に響いて、ほろりと涙が流れた。


パパの言葉はまるで、"結婚を許す"と言っているようにも聞こえた。

許してもらえたと思った瞬間、それがつまりリオレッドを離れるという事を意味しているのを、私はようやく実感し始めた。



「パパと離れたくない…っ。」



エバンさんと結婚できるのは本当に嬉しいことだけど、パパと離れて暮らさなければいけないのはとても寂しい。素直に思ったことを口にすると、パパは「ハハッ」と小さく笑った。



「それじゃあ、パパからエバン君にお断りしておこうか。」



パパは少し楽しそうな声で言った。楽しい事なんて何もないのにと少し怒りながら、私は首を横に振った。



「パパが結婚してくれるならお断りしておいて。」

「なら、もう行くしかないな。」

「また振られた。もうやだっ。」



涙を流しながら、私は笑った。

体を離してパパの顔を見ると、パパも子供みたいな顔をして、無邪気に笑っていた。



「リア。」



そして頬を伝う私の涙をぬぐいながら、パパは私の名前を呼んだ。その声にいっぱいに、パパの私への気持ちが詰まっているような感じがした。



「どこにいても、パパはリアが大好きだ。」

「私もよ、パパ。」



2回目のプロポーズも断られたけど、やっぱり私たちは相思相愛みたいだ。

私達がラブラブすぎてため息をついているママのことなんて置き去りにして、パパとしばらくイチャイチャし続けた。






私がのんきに過ごしていたその頃、エバンさんはテムライムに帰って早々に、王様と自分の両親にも私と結婚したい意志を伝えたらしい。そして私がまだ自分に今起こっていることを吞み込めていないうちに、王様は私を心から歓迎してくれて、そしてエバンさんの両親もご了承をくれたという連絡がきた。



「何もしないうちに話が進んじゃうんだけど。いいのかな、これで。」

「いいじゃないですか。幸せなことなんですから。」



ティーナは今日もテキパキと支度をしながら言った。結局ティーナは今回も、テムライムについてきてくれることになった。



「いつも振り回してごめんね?」

「今に始まったことじゃないです。」



それがいい意味なのか悪い意味なのかはよく分からないけど、ティーナは嬉しそうに笑っていた。いつも私のせいで振り回してしまっている分、ティーナのことを一生かけて大切にしていこうと、プロポーズするみたいなことを考えた。




それからも嘘みたいに滞りなく話は進んでいた。

本当はすぐにでもエバンさんと暮らしたかったけど、あんなことがあってすぐに他の人と結婚するのは、エバンさんにとっても私にとってもよくないことだというのはお互いに理解していた。


結局パパとエバンさんのお父さんが話し合ってくれて、節目ともいえる私の二十歳の誕生日に、テムライムにお嫁に行くことが決まった。それまでの間は、出来る限り大人しく過ごしてほとぼりを冷ます事だけが、私に出来ることだった。



「リア~!ご飯よ~!」

「はぁい!」



最初は何もすることがなくて、暇だと感じる時もあった。でも考えるべきことも仕事もせずに家族とただ笑って過ごすだけの日々は、今までこの世界で生きていた中で、一番穏やかで優しい時間だったような気がする。



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