第51話 覚悟を決めるのよ
そしてその後すぐに、あのクソ王へのアポを王様が取ってくれた。でも結局王とは直接会えないことになって、交渉の席にはおそらくパパとウィルさんあたりが来るんだと思う。
その知らせは私にとって少しホッとするものであり、同時に多少のやりにくさも感じるものでもあった。だって私がお話をする相手は私の大好きな人たちで、もしかしたらその人たちと、厳しいお話をしなくてはいけないかもしれないから。
とはいえ今更「行きません」という選択肢は、私の中になかった。
だから私は自分自身に"私はテムライムの人間だ"と強く言い聞かせて、リオレッドに行くことを決めた。
王がどれだけでも早く会いに行きたいとお願いをしてくれたおかげもあって、一週間後には交渉の場を設けられることになった。
交渉まで1週間という事は、テムライムにいられるのはあと3日程度という事を意味していた。その3日間の間でどう交渉を進めるのかを相談すべく、私はロッタさんの元へと朝から行った。
「交渉の材料が今回は特にありません。残念ながらなんとか相手に譲歩してもらうようお願いするしか、道はないんです。」
交渉をどう進めるか考えるとはいっても、貿易摩擦を解消するためにはどちらかの国の譲歩が必須となるから、これと言った材料がないというのが現状だ。何とか情に訴えられるよう交渉を進めなきゃいけないんだけど、情に訴えかけられる人であれば、そもそもこんな事態に陥っていない。
「相手は、きっと手ごわいです。」
明言は避けたけど、きっとみんなわかってくれている。その証拠にロッタさんも一緒に居合わせたエバンさんも「うんうん」とうなずいていた。
「でも、信じましょう。私たちの信頼関係を。」
あのクソ王に期待なんて全くしていない。でも政治の実権はマージニア王の方が握っているはずだし、直接アイツと交渉するわけではない。パパやウィルさんもきっと厳しい立場で交渉をすすめることになるんだろうけど、話し合う事でいい解決法が浮かぶことを願う事しか、今の私には出来ることはない。
「交渉を進めて行く中で、"リオレッド製品の値段をあげます"と一方的に宣言するのは出来るだけ避けたいと思っています。」
相手が相手だから、そんなことを言えばもっとヒートアップしてしまってもおかしくはない。お互い関税を上げていけばお互いにとってのメリットが全くないし、それではいつか共倒れになってしまう可能性だってある。
「このままどちらかの立場が弱くなるのはお互いにとって良くないこと、そしていつかこの立場は逆にだってなり得ることを、しっかりアピールしていきたいと思います。」
一時的に関税を付けて状況を緩和することが、解決への一番の近道だということを分かってほしい。そしてここでリオレッドがテムライムに恩を売っておくことで、いつか逆の立場になったときの交渉だってスムーズだという事に、ちゃんと気が付いてほしい。
もっともそんなことは、パパやウィルさんはとっくにわかってるんだろうけど。
「そう、ですね。」
「頑張りましょう。」
今回の交渉に同席してくれるロッタさんとその部下の数名の方々は、私の話を聞いて納得したようにうなずいてくれた。今まで何度だって交渉の場には立ってきたけど、思えば私が中心になるってことが最初から決まっているのは初めてな気がする。
「大丈夫です。きっとわかってもらえます。」
もし私が逆の立場だったとしたら、リオレッド出身の私のことを一番の頼りに思って交渉の場にいくだろう。それは誰が見ても明白なことだったから、私は出来るだけ堂々とそう言った。
「ですね!」
するとロッタさんはにっこり笑って言ってくれた。
本当はその"大丈夫"が、一番不安に思っている私自身に対する言葉でもあった。でもそれを悟られるわけにもいかない私は、ロッタさんの笑顔に笑顔を返して、大きく一つうなずいた。
――――さあ、リア。
覚悟を決めるのよ。
あざとさもずる賢さも通じないかもしれない戦いが、すぐそこに迫っている。私は両手をギュっと固く握って、自分の中にある今にも揺らぎそうな決意を何とか固めた。
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