第50話 これから一体、どうなるんだろう
「王様、その失業者の方たちですが…。」
リオレッドに行って交渉をしなければいけないのはもちろんだけど、今すでに困っている人がいるのであればすぐにでも助けたいと思った。この間見張り役をしていた人たちは今つかまっているはずだから、家族の人たちはどうしているんだろうと心配になって聞くと、王様は「ああ」と言った。
「大丈夫だよ。家族はこちらで保護している。」
「そうですか…。」
保護してもらえているという事には、一旦安心した。
でも今からの交渉がうまく行ったとしても、生活の状態が回復するのはしばらく先になるだろうから、今後のことを考えないといけないなと思った。
「捕まっている失業者たちだが…。」
何か対策をしたいと言おうとすると、私より先に王様が言葉を続けた。今日はよく先手を打たれる日だなと思った。
「最近城壁の汚れが気になるという報告が入っている。リアが奉仕活動で罪を相殺するというなら、そこの掃除をさせよう。」
「王様、それは…っ!」
ワシライカ地方やカワフル地方の人たちには、奉仕活動をしている間も私たちが支援をする約束をしてきた。それにあの人たちには得意な大工仕事関係の奉仕活動をさせる予定だから、奉仕活動が今後の仕事にだってつながっていくんだと思う。
でも失業者の人たちに奉仕活動をさせるというのは、その間家族が何の収入も得られないことを意味している。
王様だってそんなことは分かっているはずなのに、止めようとする私を見て首を横に振った。
「捕まった以上、おとがめなしで開放するなんてことは出来ないよ、リア。」
「それがルールだから」と、王は付け足した。
確かにそれもそうだ。
例え誘われた側の人たちだからと言って、何もせずに彼らを解放したとしたら、"犯罪をしても許される"と思われてしまっても仕方がない。でも…。
「その奉仕期間に関しては、その者たちは家族もろとも王城の使用人の家に住まわせよう。」
どうにかならないかと頭を抱えている私の代わりに、王は話を続けた。
「奉仕活動中はもちろん対価を与えることは出来んが…。その代わり、その者たちの妻を、王城の使用人として働かせよう。」
思ってもいなかった提案に、心底驚いた。
驚いた顔のまま王様をみると、彼はとても穏やかな顔で笑っていた。
「ありがとう、ございます。」
ラルフさんもとても穏やかな顔で、そう答えた。
その返事を聞いた後、王は今度は私の方を見た。
「リア、それでいいかな。」
いいもなにも…。完璧すぎます。
そんな気持ちを込めて、私は大きく一つうなずいた。すると王様も同じように、満足した顔をしてうなずいてくれた。
「それでは、失礼いたします。」
「ああ。またすぐに連絡する。」
今すぐにでもリオレッドに行ってしまいたいけど、そんなに簡単に行かないことは分かっている。私たちはとりあえず王様にアポを取ってもらう約束をして、今日はその場を後にすることにした。
「リア。」
王城を出発してしばらくした頃、エバンさんが私を呼んだ。
どうしたんだろうと思って彼の方をみると、何だか少し悲しそうな顔をしていた。
「今のリオレッド王と、昔なにかあったの?」
そう言えばあの話をエバンさんにしたことはなかった気がする。
っていうよりもうあの話なんて遠い昔の話として消化されているせいで、私自身も忘れてしまっていた。でも聞かれたんだとしたらちゃんとこたえないとなと思って、あの日の記憶を頭の中から引っ張り出した。
「確か5歳のときね。カルカロフ家に毎日お勉強しに行ってたの。」
「ああ。メイサと一緒にね。」
そう言えばメイサがアルと私の家庭教師役までしてくれていたことは、話していた気がする。あの頃は何もかも順調で、本当に楽しいだけだった。でも思ってみれば私はパパやじぃじを動かしているつもりが本当は二人に守られていたおかげで、楽しく順調に事柄を進められていたのかもしれないと、今更になって思った。
「お庭でアルと遊んでたら、当時王子だったイグニア王様にぶつかってしまって…。謝ったんだけど許してもらえなくて、その場で蹴られたり髪の毛を引っ張られたりしたの。」
「そう…。」
エバンさんは私の言葉を聞いて、とても苦しそうな顔で返事をした。すごく昔の話だからそんなに悲しまなくていいのに、彼はやっぱり優しい人だなと思った。
「結局じぃじが助けてくれたんだけどね、その後もずっと、イグニア様にはあまりお会いしなかったの。たぶんじぃじがそうしてくれてたんだと思う。」
あれだけ王城に行って色々な会議にだって参加したのに、あのクソ王に会わなかったのは絶対にじぃじが裏で手を回していたおかげだ。
「だから今回は…。ちょっと不安。彼がどうなってるかも、私あまり知らなくて…。」
でもこんなことになるんだとしたら、定期的にあって耐性を付けておいた方が良かったかもしれないと思った。会わなくしてくれていたおかげで私はアイツの最近のことを全く知らなくて、扱い方も分からないし、対処法も今現時点では立てられない。
「リアが弱音を吐くって、珍しいね。」
一人でぐずぐず悩んでいると、話を聞いていたラルフさんが言った。
そしてそれに同調するかのように、エバンさんが「そうだね」と相槌を打った。
「大丈夫。君は正しい。だから自信をもってお話すればいいよ。」
エバンさんはしっかりと私の目を見て、そう言ってくれた。いつもならエバンさんが何か言葉をくれたら心の底からホッとできる。でも今は体の中で、ホッとした気持ちとこれから母国を敵に回さなければいけない複雑な気持ちが、ずっと戦っている感覚がした。
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