二十六歳 貿易戦争の始まり
第48話 王様への報告
こんな騒動の中ですが、26歳になりました。
一つ質問なんですが、26歳はアラサーと呼べるんでしょうか。
菜月だった時はアラサーって28くらいからでしょ!と豪語していましたが、いまだによくわかりません。29歳だったあの時は、立派なアラサーでしたけどね。
26歳の誕生日は、みんなにサプライズをしてもらって幸せだった。
まあサプライズと言っても私が余計なことをしてしまったせいでサプライズにならなかったんだけど、みんながケーキでお祝いしてくれるってだけでも、少しは心が癒される感じがした。
「ママ?今日はどこ行くの?」
「今日はちょっと、王様のところに行ってくるね。」
でも本当は、癒されている場合なんかではなかった。
帰ってきてすぐに宣戦布告をのんきにしに行っていたけど、もっと解決すべきはことは他にある。あの日の後すぐに王様に"会いたい"という意思を伝えてもらうと、すぐにでもおいでと言ってもらえた。
本当は私が誘拐されたことなんてのは、この国にとってはなんてことない出来事だ。こっちの方が先にすべきだったのかもしれない。
なんて言うと、エバンさんやラルフさんに怒られるって分かってるから、口が裂けても言わないことにしている。
「何しに行くのぉ?」
「遊びに?」
いつもより念入りに支度をしているのが珍しいのか、カイとケンは興味津々な顔をして言った。私はそんな二人の頭に手を置いて、「ううん」と言った。
「守る戦いに、行ってくるね。」
いつか国のために戦うことになるかもしれないこの子たちに伝えたいのは、戦うのは誰かを守るためだってことだった。同じ"守る"でも、自分のプライドを守るために戦って、人を傷つけるのは絶対に違う。
「そっかぁ。」
多分何も分かってないんだろうけど、カイはニコニコしながら言った。
このままいつまでも、優しい気持ちを持って育ってねという願いを込めて、カイとケンの頭を丁寧に撫でた。
☆
「よく来たね。」
「本日はお時間いただき、ありがとうございます。」
今日はラルフさんとエバンさんも、一緒に王様のところについてきてくれた。
私が急に会いたいと言ったからか、もしくは私が誘拐されて以降初めてここに来たからか、王様はいつもより心なしか硬い表情をしているように見えた。
「リア…。」
硬い表情のまま、王様は言った。
あれからしばらく時間が経って、もう怪我はすっかり治ったし、心の方も随分穏やかになった。王様に本当に大丈夫だってことを伝えるためにも、にっこり笑って「はい」と答えた。
「今度のことは本当に…。」
「やめてください、王様。」
案の定謝ろうとした王様の言葉をさえぎって、食い気味に言った。すると王様は困った顔をして、「でも…」と言って口ごもった。
「ご心配をおかけしたのになかなか来られず、こちらこそ申し訳ございませんでした。」
本当は一番に来るべきだったのかもしれない。でも状況が把握できていない以上、王様に報告に行けなかった。それに王が謝らなきゃいけない理由なんて、何一つ存在しない。
「わかっている。はっきりさせてから来てくれようとしてくれていたこと。」
すごく察しのいい王様は困った顔を崩さないまま笑って言ってくれた。それを理解してくれているだけで充分だと思って、「ありがとうございます」と言った。
「今回のこと、奉仕活動だけで許すことにしてほしいと聞いたが…。」
「ええ。」
奉仕活動をするだけで重い罪に問わないでほしいお願いは、すでにエバンさんから宰相のトマスさんへと伝えてもらっていた。でも本当の黒幕のことまで知らない王様からすれば、暴力まで振るわれたのに奉仕活動だけで済ませるなんてと思われても仕方がないと思う。
「それはあまりに軽すぎないかい。国としてもっと重い罪に課しても…。」
「はい。私もそう思います。」
すると私の代わりに、ラルフさんが答えた。
即レスで裏切られたことにびっくりして、思わず勢いよく彼の方を見た。
「この子は少し、優しすぎます。」
ラルフさんは穏やかな声で言った。
予想のしていなかった展開に、私はただただ動揺するしか出来なかった。
「昔の私なら、すぐにでもそいつらを潰しに行っていたでしょう。王の許しも得なかったかもしれません。」
穏やかな声で、とても物騒なことを言った。
その時代に出会っていたとしたら、もしかしたら今みたいな関係は築けなかったかもしれないと思った。
「ですが、この子は自分を傷つけた相手を目の前にして言ったそうです。"恩が恩で返ってくるように、暴力は暴力で返ってくる。その連鎖は自分が断ち切る"と。」
そう言えば事情聴取をした時、そんなことを言った気がする。
私が知らないうちにエバンさんがラルフさんに話していたんだろうけど、まさか私が啖呵を切った話までされていないかと、少し不安になった。
「自分が怖い目に合った直後になかなか言えるもんじゃありません。優しすぎると言いましたが、それを聞いた時は誰よりも強い子なんだと思いました。」
ラルフさんがそんな風に思っていてくれたなんて全く知らなかった。
でも私は本当は強くなんかない。守ってくれる人たちがいるから、強くいられるだけだ。
「だから私は、この子の意志を尊重することにしました。生意気かとは思いますが…。王もどうか、尊重してやっていただけませんでしょうか。」
ラルフさんは困った顔のまま笑って、王様に頭を下げた。私もそれにつられて、急いで頭を下げた。
「やめてくれ。頭を下げる事なんかじゃない。」
王様が慌てたように言ったから、私はゆっくり頭をあげた。すると王様も、ラルフさんとおなじような困った顔で笑っていた。
「そんなことを言われては、これ以上深いことを何も聞けないじゃないか。これ以上、罪にすることだって、出来ないじゃないか。」
約束までしてきたのに、王に重い罪にすると言われてしまえばおしまいだと頭の片隅で思っていた。だから納得したようにそう言ってくれたことに、ホッと胸を撫でおろした。
「お前も…。ずる賢くなったな。」
王様は、ラルフさんを見て続けて言った。相変わらず少し困った顔はしていたけど、何だかちょっとだけ嬉しそうにも見えた。すると私と同じように胸をなでおろしていたであろうラルフさんが、「ですね」と返事をした。
「リアの、影響ですかね。」
「わ、私ですか?!?」
最後に予想外の付け足しをされて、また驚いた。
打ち合わせと話が違うじゃないかと大げさに驚くと、王様もラルフさんも、エバンさんも楽しそうに笑っていた。
なんて幸せな空気なんだろうと思った。
そして今私がしなくてはいけないのは、この空気が長い間続くように、私にしか出来ないことをすることだとも思った。
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