第47話 宣戦布告~ちっちゃい抵抗を添えて~
「わかりました。」
私が発言してから、グレッグさんですら何も言葉を発しなかった。
私は強い目のまま彼をまっすぐ見据えて、出来るだけ堂々とした姿勢を作った。
「ここからは私の独り言です。」
言い合っても分かり合えない。証拠がないと言われればそれまでだ。だから私は、自分の言いたい事だけを言う事に決めた。
「私を倒したければ、正々堂々と来てください。」
もし私がいる事でディミトロフ家が発展していくと評価してくれているのであれば、もっと真正面から倒しに来てほしいというのが私の願いだ。卑怯な手さえ使わなければ、私だってラルフさんだってエバンさんだってこんな風に怒ってはいない。
「私たちは騎士の一家ですが、暴力に任せてもなんの利益もありません。暴力ではない形で戦いましょう。」
だからと言って、それは暴力で倒しに来いという意味ではない。
国を守るはずの騎士同士が国内で紛争を起こすなんて、誰にとってもなんの利益もない事だ。
「私はどんな脅しにも屈しません。どんな卑怯な手にも、絶対負けません。」
これ以上何かしたら、もっとひどいことをする。
大切な人にも、危害を加えかねない。
今回のことは、そんな脅しにも聞こえる。
確かに私は傷ついた。そして子どもたちのこともママのことも傷つけてしまった。だからと言ってそんな卑怯な脅しには、絶対に屈したくない。
「どこにだって逃げもしません。もし戦いを挑まれるのであれば、真正面から受けて立ちましょう。」
そして私は逃げない。
テムライムは私の"国"であって、ディミトロフ家は私の家族だ。家族や国を捨てて逃げる事なんて、絶対にしない。
そして正々堂々と戦いたいというのなら、私はその喧嘩を買う。
まあ絶対に負けないけどね。
「今は国の中で争っている場合じゃないんです。」
それに今、テムライムは大きな危機の中にいる。
みんなこの事態をそんなに重く受け止めていないみたいだけど、貿易摩擦で失業者まで生まれ始めている今の状況が悪化すれば、もっともっとひどいことになる。
私は本当は、こんなことをしている場合ではないんだ。
「一時の感情に任せて考えるのをやめて、もっと広い視野で国や国民のことを考えませんか。いつかそれがきっと自分たちの利益につながりはずですから。」
怒りや嫉妬に任せて行動を起こすことは簡単だ。
でもいつかその感情がおさまって自分を振り返った時、後悔するのは自分自身なんだ。
そのことにいつか、この人が気付いてくれますように。
私に今できるのは、そう願う事だけだった。
「私が言いたいのは以上です。」
言いたいことを一通り言い終わると、それだけでとてもスッキリした。
この人が私が言ったことを理解してくれたとは思っていないけど、言えただけでも充分だ。
すると案の定、グレッグさんは私の独り言を聞く前と同じようににやりと笑って私を見た。
「長い、独り言だったね。」
「ええ。聞いてくださりありがとうございました。」
きっと何も伝わってない。でもそれでもいいんだ。
私だってやられっぱなしで終わらないからなと宣戦布告するってのが、今回の訪問のそもそもの目的なんだから。
「帰りましょう。」
私が異常にすっきりした顔をしているからか、ラルフさんもエバンさんもあっけにとられた顔で「ああ」と返事をした。これ以上長居してアイツの卑怯な顔なんて見たくないと思った私は、あっさりと立ち上がって出口の方へと歩みをすすめた。
「あ、そうだ。」
でも心の中のどこかに、最後に一発かましてやりたい気持ちがあった。
スッキリしたとか言っておきながら、私も卑怯な手を使われたこと、結構怒っているみたいだ。
そう自覚したらなんだかおかしくなって、思わず「ふふ」っと口に出して笑ってしまった。
「リオレッドのお茶をオルドリッジ家のものとして取り入れてくださり、ありがとうございます。私の母国のものを使って下さるなんて、とても嬉しいです。」
お前が自慢しているものは、お前の嫌いな私の母国がルーツのものだ。
そう伝えれば、きっとこいつのプライドは傷つく。
すると案の定、グレッグさんは私の言葉を聞いた後、今日初めて目を大きくした。
――――ははははは。
ざまあ見やがれ。
卑怯な手は使わないとさんざん言っていたはずなのに、自分もとても小さくてみみっちい抵抗をした。何の解決もすることが出来なかったけど、今日はあの目を見られただけでも満足だと自分に言い聞かせながら、決戦の地を後にした。
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