第42話 正々堂々と行こうじゃないの!



「あの。」



部下の人たちに退出してもらって、私は自分の中に怒りを秘めたまま言った。ラルフさんもエバンさんも真剣な顔をしてこちらを見ていたから、きっと私の怒りは全身からあふれ出てしまっているんだと思う。


でも、それでよかった。むしろあふれ出してほしかった。今は怒りをこらえて冷静になる場面ではないと思った。だから私は目に怒りを込めたまま、二人を見た。



「お約束を、取り付けてくれませんか。」



どうしてやろうかと思った。

水面下で動いてじわじわとせめて、家ごとつぶしてやろうかと思った。多分それも出来ないことはない。彼らも知らないうちに家ごとつぶすことは、多分そんなに難しい話ではない。



でも…。



「卑怯な手を使って、彼らに制裁を与えることはしたくありません。」



それではあいつらがしたことと同じことを、自分たちもすることになるだけだと思った。自分が怒っている誰かと同じ方法を、私は絶対に使いたくなかった。



「かと言って、全面戦争をしている場合ではありません。本当はもっと先行して解決すべき問題があるんです。」



本当は家同士の小さな争いなんて、している場合ではない。

リオレッドとの貿易摩擦は今この瞬間だって少しずつ大きな問題になり始めているだろうし、対応が遅れれば遅れるほど、またどこかで争いが生まれてしまう原因にもなってしまう。


だから私たちは、国の中で小さな小競り合いをしている場合なんかでは全くないんだ。



「リアは、どうするつもりなの?」



怒っている私の様子を察してか、エバンさんが恐る恐る言った。私はそんなエバンさんににっこり笑いかけて、「あのね」と出来るだけ優しく言った。



「お話しに行くの。」

「それだけ?」

「ええ。」



顔は笑ってるつもりだけど、きっと目が笑っていないんだろう。その証拠にエバンさんは、不審感たっぷりの目をして私を見返した。



「大丈夫。武力を行使させることなんて絶対させないし、喧嘩もするつもりない。」



私のせいじゃないと言ってくれたけど、私がこの家族の一員になって関係が崩れてしまったことは確かな事実だ。だからこれ以上争いごとを大きくする気はないし、出来るなら関係の回復までしたいと思っているから、喧嘩をする気なんてさらさらない。



「ただ、言いたいの。」



でも私の大切な人を傷つけたこと、このままなかったことにする気だってない。



「戦うなら人を巻き込むことなく、自分で来いって言いたいの。」



気に入らないことがあるなら、正々堂々と戦いましょうって言いたい。

その"戦う"っていうのは武力の行使ではなく、お互いが国のためになるような方法で戦いたいと、そう言いたい。



すると私の言葉を今まで黙って聞いていたラルフさんが、急に「ハハハ」と笑いだした。不思議に思ってエバンさんの方を見ると、彼も私を見て首を傾げていた。



「ごめんごめん。」



私たちの様子を見て、ラルフさんはまだ楽しそうな顔をして謝った。



「誰よりもリアは男らしいなと思って。」



そして楽しそうな顔のまま、ラルフさんは言った。

確かに私は今、男気に溢れたことを言っていると思う。天使としてあざとく生きてきたはずなのに、いつの間にかイケメンみたいなことを言ってしまったと自覚した瞬間、私も少しおかしくなって笑った。



「僕よりたくましくならないでよ。」



すると笑っている私に、少し困った顔のエバンさんが言った。

気持ちで言うともうすでにエバンさんより強くなっている気がすると思ったけど、それは黙っていてあげることにした。



「本当は今すぐにでも乗り込んで怒鳴り込みたいくらいだが…。リアがそういうならそうしよう。」



笑っている私とエバンさんを見て、穏やかな顔になったラルフさんが言った。

顔は穏やかだったけど、エバンさんと同じ赤い目が、奥の方でメラメラと燃えているのが分かった。



「約束を取り付けて、3人で行こうじゃないか。正々堂々とな。」

「はい。」



私も同じように、メラメラと闘志を燃やして返事をした。



さあ、敵地へ乗り込みだ。



燃える闘志のその奥に、なぜかワクワクした気持ちを感じている自分に気が付いた。

もしかしたら私って、エバンさんより騎士に向いているんじゃないかって、今更思った。

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