第43話 心強い味方がたくさんいてくれるから
それからすぐ、ラルフさんはオルドリッジ家との約束と取り付けてきてくれた。
きっと相手方からしたら、ディミトロフ家から連絡があった時点でこちらが全てわかっていることくらい明白だっただろう。
かと言って断ってしまえば、まるで"自分たちがやりました"と宣言するようなものだから、約束自体がすんなり出来ることはよく分かっていた。
「行こうか。」
「はい。」
あれだけ意気込んだ私だったけど、実際約束が出来たという話を聞いた時から、何となく気を張っているような感覚を抱えていた。でも自覚したところでその解き方が分からなかった私は、何となく体を固くしながらオルドリッジ家へ向かう馬車へと乗り込んだ。
「リア。」
馬車に乗ってしばらくしたころ、エバンさんに不意に名前を呼ばれた。
それに反応していつの間にか落ちていた目線をあげると、エバンさんはすごく穏やかな顔をして笑っていた。
「大丈夫だから。」
その"大丈夫"はなんとなく、いつか私がルミエラスから逃げ出した時にみんなから言われた"大丈夫"に似ていた。
「ありがとう。」
したいようにしていいよと、そう言われた気がした。
私は目の前のことに必死になると、自分には味方がたくさんいるってこと、つい忘れそうになる。でも私は一人ではない。いつだって後ろには、守ってくれる人たちが付いてくれている。
「さあ、もうすぐ着くよ。」
私はそういう人たちを危険にさらさないため、自分に出来る戦いをしなくてはいけない。家からちゃんと持ってきた闘志と決意を胸に、遠くの方に見えてきた立派な屋敷を見つめた。
☆
オルドリッジ家の屋敷は、王様の敷地の中でもディミトロフ家の正反対の場所に位置していた。テムライムに来た時一通り案内をうけてきたから初めて来るってわけではないけど、中に入ったことはもちろんない。
「よし、行こう。」
ディミトロフ家と同じように豪華でキレイな門の前には、すごく強そうなおじさんたちが立っていた。その人たちもディミトロフ家の騎士団の人たちと同じような甲冑を付けているんだけど、ディミトロフ家が赤色を基調にした服を着ているのに対して、その人たちはネイビーを基調とした服を着ている。
「お待ちしておりました。」
私達が言葉を発する前に、門番のおじさんたちはこちらに向かって敬礼をした。
私もその敬礼に合わせて丁寧に礼をすると、おじさんたちは少し驚いた顔をして私を見ていた。
それが私が来ると予想していなかったからの驚きなのか、近くでエルフを見たことに対する驚きなのかはよく分からない。でもとりあえず、あざとさ全開のスマイルは作っておいた。
――――そう。
敵地でも私はあざといのだ。
「お久しぶりです。」
心の中でそんなことを考えていると、騎士団には見合わない秘書みたいなおじさんが出てきた。おじさんはラルフさんやエバンさんを見るなり腰を低くして敬礼をしてくれたもんだから、私ももう一度丁寧に礼をした。
「こちらへどうぞ。」
そしておじさんは、スッと家の中に通してくれた。
門の向こう側にはこれまたディミトロフ家に負けずとも劣らないキレイな庭があって、色とりどりの花が咲いていた。
キレイな庭を見る度、反射的にカルカロフ家の庭のことを思い出す。オルドリッジ家の庭もカルカロフ家と比べようもないほどキレイだけど、カルカロフ家の庭の手入れを今は元騎士王がしていると知ったらみんな驚くだろうか。
今まで私のことを一番に支えてくれた一家のことを思い出していると、心の底から勇気が湧いてくる気がした。離れていたって、直接には味方になれないときだって、その存在を思い出すだけで心強い。
どんどん近づいてくるオルドリッジ家の扉は、キレイなはずなのに少しよどんでいるようにすら見えた。それなのに私が力強く歩みを進めていられるのは、きっと今まで出会ってきたたくさんの仲間たちのおかげなんだろう。
そう自覚した瞬間、どんどん勇気が湧いてくる感じがした。その勇気を取りこぼさないためにも、私は両手のこぶしをグッと握った。
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