第41話 本当に謝るべき人たち
「結論から申し上げますと…。」
そして次の日。朝起きて早々に、昨日の報告を受けるために会議室に集まった。
さっきまではパパが帰ってきたことを喜んでいる子どもたちと、穏やかにご飯を食べていたはずだ。それなのに今度はどことなく穏やかではない空気の漂う書斎の中で、エバンさんは言いにくそうな顔をしていた。
「人質は無事、解放されました。少しは戦闘となりましたが…。リアの言った通り円をちらつかせて交渉したいことを伝えると、すんなり受け入れられました。」
それを聞けた瞬間、自然と「はぁ」と大きく息を吐き出してしまった。
張りつめていた糸みたいなものが少しだけ緩んだ感覚がして、肩に入っていた力もスッと抜けた気がした。
「そして黒幕のことですが…。」
それなのにエバンさんは、全く油断ならないセリフを言った。そしてなぜかすごく申し訳なさそうな顔をして、私の方を見た。
「黒幕はオルドリッジ家です。」
「オルド…リッジ。」
その名前には聞き覚えがあった。
確かオルドリッジ家というのはテムライムにもう一つある騎士の一家で、ディミトロフ家とはライバルみたいな関係にあるんだと思う。
私は結婚式でご挨拶させてもらったくらいの関係だけど、きっとラルフさんやエバンさん、部下の方たちにとってみれば、その一家がかかわっていたというのはとてもシリアスな問題なんだろう。
みんなが黙ったままうつむいてしまったことが、ことの重大さを表しているように思えた。
「誘拐さえすれば、それが成功しようと失敗しようと金を払うという事だったみたいです。手付金はもらっていたようですが、その残りの円を受け取るまではワシライカのやつらに自分たちのことをばらされるわけにもいかず…。」
「だから人質を解放しないままだったと。」
「はい。」
空気がさらに重々しくなって、押しつぶされそうになった。大きな組織がかかわっているとは思っていただろうけど、まさかそれがライバル一家だとは思っていなかったからだろうか。
私は誰かが何かを言い出すまで、ただ座っているしか出来なかった。
「リア…。」
すると重々しい雰囲気を割くように、ラルフさんが言った。
呼ばれると思っていなくて完全に気を抜いていた私は、驚いてラルフさんの方を見た。
「本当に、すまん。」
ラルフさんが謝ることなんて何もないのに、彼は深く頭を下げて言った。
「昔オルドリッジ家とは…確執があってな。いがみ合っていた時期もあったんだ。でもそれも随分落ち着いて、今はいい関係が築けていたと思っていた。」
すごく悲しい目をして、ラルフさんは言った。本当に申し訳ないって思っているのがその目から伝わってきて、こちらまで悲しい気持ちになってきた。
「家同士のいがみ合いで、君や子どもたちを深く傷つけてしまった。本当にすまん。」
彼はもう一度、深く頭を下げた。私は急いで「やめてください」と言って、頭を上げてもらった。
「きっと私がたくさん余計なことをしたせいで、いい関係に傷をつけてしまったんです。」
いい関係を壊したんだとしたら、その原因は紛れもなく私だ。
きっとオルドリッジ家はディミトロフ家が勢力を伸ばしていることに脅威を感じているんだろうし、妬みみたいなものもあるんだろう。
そして勢力を伸ばしている原因が、私にある事だってよく分かっている。
「彼らも私が原因だと分かっているんです。だから私を攻撃したんです。誘拐が成功しても失敗してもいいと言ったのは、精神的に私を攻撃したかったからなんだと思います。そしてあわよくばどこかに売り飛ばして消すことが出来れば、それもそれでいいとでも思ったんでしょう。」
誘拐が成功して私がどこかに売り飛ばされたとして、そのお金が入ってこないオルドリッジ家には何のメリットもない。きっと彼らは単純に私を再起不能にしたくて、今回のことを起こしたってことがここまでの話でよく分かった。今までの点々と宙に浮いていた疑問が、線でつながる感覚がした。
「リアは…っ!」
するとエバンさんが、必死な顔をして言った。
きっと「リアは悪くない」と言おうとしてくれたんだろけど、私はそれを止めた。
「かと言って、私は自分が悪いことをしたとも思いません。」
そう、私は自分が悪いことをしたと思っていない。
だって今までしてきたことは全て、ディミトロフ家のためであり、そして国のためでもあったんだから。
私が悪いことをした相手は、巻き込んで傷つけてしまった子どもたちやママ、そしてこうやって謝ってくれる人たちだ。今まで自分がしてきたことは間違っていないと、自信を持って言える。
「謝るべきは、彼らの方です。」
謝るべきは、ラルフさんではない。もちろんエバンさんでも、私でもない。
大切な人たちを傷つけて、そして謝らせて。その気のない人たちを駆り立てて、誘拐まで計画させた。
彼らの罪は重い。とても重い。ムカつく。
自分の体の中が、メラメラと燃えている感じがした。こんな風に誰かに怒るのは2回の人生を通しても初めてのことだ。これからアイツらをどうしてやろうかと、色々と考えを巡らせた。
「…リア?」
途中でエバンさんが心配そうな顔をして私を覗き込んだから、きっとよっぽど邪悪な顔をしていたんだと思う。安心させるためにも「大丈夫」とは言ったけど、私はしばらく怒りの炎を消すことが出来そうになかった。
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