第37話 帰還そして次の作戦


それから数時間後。私たちはようやく家にたどり着いた。

日帰りでは帰ってこれたんだけど、予想通り時間は深夜になってしまっていた。



「おかえり。」



私達が到着した音を聞きつけたのか、エバンさんが家から出てきてくれた。やっぱりまだどこか気を張っていたのか、エバンさんの顔を見たら涙が出そうなくらいホッとしてしまった。



「ただいま。」



ホッとした気持ちのまま、私はエバンさんに抱き着いた。

するとエバンさんは私を優しく抱きしめて、理由の分からない「ありがとう」を言った。やっぱり親子だなって思った。



「子どもたちは?」

「遊び疲れてすぐ寝ちゃったよ。ルナは少し寂しそうにしてたけど、ティーナが一緒に寝てくれた。」

「そっか。」



ママがいないと寝れないって言っていたカイとケンは、たくましく成長してくれている。それはとても嬉しくもあり、同時に少し寂しくなる報告でもあった。



「リア。」



気が付かない間に複雑な顔をしていたのか、エバンさんは優しく私の名前を呼んだ。そしてそのまま頬に手を置いたと思ったら、身をかがめて私に目線を合わせた。



「僕が寂しくて寝られなかったよ。」



エバンさんは本当に寂しそうな目をして言った。大の大人が本気でそんなことを言っていると思ったら、少し面白くなってしまった。



「じゃあ寝れるようにトントンしてあげよっか。」

「うん、お願い。」



私達は目を合わせて、クスクスと笑った。すると近くにいたラルフさんも部下の人たちも、楽しそうに笑っていた。一日中気を張っていたのは、私だけではない。むしろ私を絶対に守らなければって思っていた部下の人たちの方が、気を張ってくれていたはずだ。



「皆さん、今日は本当にありがとうございました。」



私がついていくと言わなければ、もう少し楽に仕事が出来たのかもしれない。今日一日守り抜いてくれた皆さんに、私は深く頭を下げてお礼を言った。



「みんなありがとう。今日はゆっくり休んでくれ。」



するとそれに続くように、エバンさんも言った。

部下の人たちはみんな歯切れよく「ハッ」と返事をした後、みんな揃って帰って行った。



「さあ、今日はとりあえず休もう。」

「はい。」



ラルフさんに促されるようにして、私達の部屋へと戻った。本当はエバンさんに話したいことがたくさんあったんだけど、ベッドに入るや否や、意識を失うようにして寝てしまった。





「それじゃ、早速。」



そしてその次の日。

遠征の報告をエバンさんと騎士団の中でも上位にいる方々にした。淡々と話をするラルフさんの顔を、エバンさんはどこか厳しい顔で見ていた。



「カワフル地方のやつだけで、今回のことを計画したとは思えないね。」



そして一連の報告を聞き終わった後、たくましい目をして言った。その通りだと思って、私は何度もうなずいた。



「そこでだ。早速今日にでもカワフルにお前が行ってこい。」



ラルフさんはエバンさんに向けて言った。

てっきりこの流れでラルフさんが行くんだと思っていた私は、どうしてだろうと思ってラルフさんの方を見た。



「ワシライカは俺にとって思い入れのある場所だが、カワフルに関しては深く関わりを持ったことがない。人質解放を要求しに行くのはもちろんだけど、今後のためにも友好的な関係をお前が築くんだ。」



ラルフさんは今だって訓練をしているみたいだし、体だって強そうだ。多分強そうってだけじゃなくて、本当に強いんだと思う。それでもそろそろ"騎士王"という地位を、エバンさんに譲ろうと思っていることがその一言で理解できた。



「わかりました。」



きっとそれを理解したエバンさんも、丁寧に返事をした。

それに続くようにして、周りの部下の方たちも大きく一つうなずいてくれた。



「今回は、リアはいけないからね。」



エバンさんは私の方を見て、先手を打って言った。まだ行きたいって言っていないのにとは思ったけど、自分なら言いかねないなとも思った。



「カワフル地方とは全く関わりがないんだ。もしかすると戦闘になるかもしれない。さすがにその現場にリアを連れてはいけないよ。それにアイツらはリアに取り返しのつかないこともしてるんだしね。」

「戦闘…。」



思えばこれまで、私は"警護"に行く彼を見ていただけで、"戦闘"に見送ったことはなかった。よく考えていなかったけど充分あり得る事だなと思うと、一気に不安になり始めた。



「大丈夫。」



まるで私の気持ちを読んだかのように、エバンさんが言った。驚いて彼の方を見ると、いつも通りの穏やかな目で笑っていた。



「僕は負けないから。」



何の根拠があるのかはよく分からなかった。でも彼がこんなに自信満々に言うのを聞くのは、初めてな気がした。彼がこう言ってくれるなら、今私に出来ることは信じる事だけだ。



「分かった。」



だから私も笑顔でそう答えた。

するとエバンさんは燃える目をクシャっと細めて、「ありがとう」と言ってくれた。

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