第34話 本物のボスとの真剣勝負


「ギ、ギルガイド様?!」



ボスの建物らしきところを守っていた男の人が、ぐるぐる巻きで拘束されているマントさんを見て驚いた声を出した。マントさんってギルガイドさんって名前だったんだと、そこで初めて知った私がいた。



「通せ。」



情けない姿をしているのに、マントさんはその人にも指示を出した。すると守っていた若い人たちは頭を下げて、扉をあっさりと開けてくれた。



「わざわざ騎士王様が…何の御用でしょう。」



扉を開けたその目の前にいたのは、ラルフさんに負けないくらい大きな男の人だった。

椅子にドカンと座ったその人はすごく邪悪な笑顔をしながら私たちを見て、嫌味ったらしくそう言った。



「ここも随分変わったみたいだな。」



私は背筋が凍るような感覚になったけど、ラルフさんは全く動揺することなく言った。そして剣を右手に持って、同じようにドカンと椅子に座った。



「見えないのか、お前の仲間だろ。」



ラルフさんは堂々とした姿勢のまま言った。するとボスであろうその人はマントさんを見てにやりと笑って、「ありがとうございます」と言った。



「弟がお世話になったようで…。」



お、お、弟?!?!

マントさん弟だったのね!



言われてみれば二人の顔はすごく似ていた。だからさっきからみんな腰が低いのかと、妙に納得している自分がいた。




「初めまして。アリア・ディミトロフと申します。」



私はわざとらしいほど丁寧に、礼をしながら挨拶をしてみせた。するとボスはニヤリと笑って、「美しいお嬢さんだ」と言った。



「ゼギドアと申します。わざわざこのような場所まで、ありがとうございます。」



そして続けて、私の挨拶に合わせたようにすごく丁寧に頭を下げて言った。そんな風に礼儀正しくできるんだったら、最初からあんな計画に乗らないでほしかったとイラっとした。



「ゼギドア様。」



でも私達を動揺させようっていう相手の戦略に乗ってしまうほど、私もバカではない。だからすごく冷静なトーンで彼の名前を呼びながら、ラルフさんの隣に座った。



「人質が、取られているんでしょう?」



そして単刀直入に言った。その言葉を聞いたゼギドアさんは、怖い顔でギルガイドさんを見た。



「兄さん、大丈夫なんだ。」



するとギルガイドさんは、彼を諭すように言った。

私が何か話をするより当人どうして話をした方が説得力があるだろうと思って、私は大人しく二人の会話を聞くことにした。



「約束してくれたんだよ。人質を助けることを。」

「お前はそれでまんまと…っ。」



人質を取られている今、こんな風に疑心暗鬼になるのはしょうがないことだと思う。むしろ疑ってかかることは、一集団のボスとしては正しい姿勢だ。



「弟を、なんといってだましたんだ。」

「だましてなんていません。本当に約束したまでです。」

「お前…っ!」



怖い声を出して脅しても姿勢を崩さない私が不愉快だったのか、ゼギドアさんが机に手をついて身を乗り出した。私はその行動に、思わず体をこわばらせてしまった。




ドンッ



すると隣で座っていたラルフさんが、剣の鞘を床に力強く叩きつけた。大きな音に驚いて、ゼギドアさんはビクッと体を揺らした。ちなみに私も驚いたってのは秘密の話にしておいてほしい。



"それ以上こちらに近寄るな"



ラルフさんは何も言わなかったけど、そう言っているように聞こえた。改めて隣にいてくれる心強さを全身で感じながら、こわばらせていた体の力をフッと抜いた。



「お話を聞く気がないのであれば、それで結構です。私はこのまま彼をトパスまで連れて帰って、王様にすべてを洗いざらい報告させていただきます。そうすれば、人質は助からないでしょうね。」



私はいたって冷静な姿勢で言った。するとゼギドアさんは今度は目だけで、こちらをにらみつけた。



「彼らがつかまっている以上、ワシライカ地方の方が罪を犯したというのは明らかなことです。」



今王城の牢屋には、見張り役をしていた数人の失業者の人たち、そしてリオレッドの騎士団とやり合っていたワシライカの山賊たちが捕まっている。本人たちがそうだと認めているんだから、それはもう隠しようもなく明らかなことだ。



「実行犯が捕まっているにも関わらず、ボスはその罪を認めない。そんな集団のことを誰が信頼するのでしょうか?次第にワシライカの悪評はどんどん広まり、今あるどんどん仕事も失っていく。そして貴重な男手が捕まっているわけですから、今以上に生活が圧迫されるでしょう。」



急に私が淡々と話しだしたのを、ゼギドアさんはやっぱり悪そうな顔で見ていた。でも私もそれに負けずに、淡々と話を続けた。



「今あなたが私の話を聞かなかったことで、近い未来に引き起こされる出来事を簡潔に説明しました。」



私は占い師でもなんでもないけど、まるで占いを話しているみたいに言った。でもこれは何の根拠もない占いなんかじゃない。誰だって簡単に予想が出来る、最悪の未来だ。



昔ここを制圧したラルフさんならこの地域ごとつぶしかねないと、そんなことを考えているのかもしれない。約束したところで、破られると疑っているのかもしれない。


だとしたらこの人も、やり方は間違っていても、何かを守るための戦いを今しているんだ。


でも違う。これでは何も守れない。

待っているのは本当に最悪の、未来だけだ。



「私は、お話をしに来たんです。あなたたちをつぶしたくてここに来たわけではありません。」



ゼギドアさんは話が通じる人だという事を感じた私は、もう怖がることなんてなく目をまっすぐ見て言った。すると今までよどんでいた彼の瞳の奥に、少し戸惑いの色が見え始めたのが分かった。

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