第33話 敵地へ突撃訪問


「そろそろだよ。」


しばらくはとても穏やかな景色を楽しんでいたけど、だんだん草木が減ってゴツゴツとした岩が増えてきた。


こんな生活がしにくそうなところに、本当に人が住んでいるのだろうか。ラルフさんは何回も来ているんだろうから疑う余地なんてないのに、それでも疑ってしまうほど辺りには水源も食べ物もなさそうだって思った。



そしてどんどんと、見え始めた赤茶色の岩が大きくなり始めた。

ついに草木が見当たらなくなったなと思っていた頃、その大きな岩の上に人影が立っているのが見えた。



「誰だ。」



きっとその人は門番的な人なんだろう。

ひときわ大きな岩の前でラルフさんがウマを止めると、その人はとても怖い顔でそう言った。



「ラルフ・ディミトロフといえば、分かるかな。」



体が大きくて顔も怖い門番の人が、ラルフさんの名前を聞いて少し動揺するのが分かった。ラルフさんは笑っていればすごく優しい顔になるけど、真剣な顔をしていると確かに怖い。それにこの辺りを一人で制圧したことがあるっていうんだから、名前を聞いただけで驚いてしまってもしょうがないなと、少し同情した。



「ボスに会いたい。」



ラルフさんは動揺している門番おじさんに、単刀直入に用件を言った。

するとおじさんは動揺しながらも、「そんな簡単には通せない」と勇敢に言ってみせた。えらいぞ、おじさん。



するとラルフさんは、連れてきた部下に指示を出した。部下のおじさんがさらにその下の部下の人に指示をだすと、その人たちは最後尾の方から、マントさんを連れてきた。



「お前たちの仲間を連れてきた。それでも通せないというなら、このまま帰るまでだが。」



マントさんとその仲間たちは、あれからすぐにテムライムへと返された。そしてどこかで拘束されているわけなんだけど、今日は交渉のためにもマントさんだけを連れてやってきた。




あれだけ怖かったのに、ロープでぐるぐる巻きにされたマントさんはすごく情けなく見えた。それでも姿を見てあの時の恐怖心が少しよみがえった私の体が、ビクッと反応するのが自分でもわかった。


するとそれに気づいたラルフさんは、手綱を握っている私の手に自分の手を重ねてくれた。驚いてラルフさんの方を振り返ると、彼は少し悲し気な瞳を揺らしていた。



「ボスに伝えてくれ。この方たちと話をしてほしいと。」

「わ、分かりました。」



ぐるぐる巻きのマントさんが、門番のおじさんに言った。すると門番おじさんは動揺しながら返事をして、もう一人の人にその場を任せて岩の向こう側に消えて行った。そしてしばらくして帰ってきたと思ったら、「ついてこい」と言って私たちを案内し始めた。



「大丈夫かい?」



マントさんが列の真ん中あたりに戻った頃、ラルフさんが小声で私に言った。私は大きく一つうなずいて、「もちろんです」と力強く答えた。



「わ、わぁ…。」




大きな門の向こう側に広がっていたのは、岩と木で作られた立派な住居だった。

こんなところで暮らせるのかなんて思っていた自分が恥ずかしくなるほどに、そこには誰がどう見てもしっかりとした"街"があった。


私がのんきに感動している間に、門番さんはウマを置いておく場所を指定してきた。ラルフさんは言われた通りにその場所にウマを置いて、数名の部下にその場所に残るように指示を出した。



「こっちだ。」



門番さんは、私たちをそのさらに奥へと案内した。そしてしばらく進んだ先には、今まで見た中で一番大きな建物が、ドンと建っていた。



「ここからついてくるのは2人までだ。」



その大きな建物の前で足を止めた門番さんは、私たちにそう言った。ラルフさんはその言葉に「わかった」と返事をした。



「私とこの子が行こう。ただし、お前たちの仲間を連れて行くために後2人ついて行かせてもらう。」



全然2人じゃないじゃんって思った。案の定門番おじさんは少し顔を歪ませたけど、それを見たマントさんが「通せ」とその人に指示を出した。



「か、かしこまりました。」



マントさんのセリフを聞いて、門番さんが言った。

思っていたよりもこの賊の中でマントさんの地位が高そうなことに、少し驚いた。



私たちはその言葉通り、ラルフさんと私、そしてマントさんと2人の部下の人たちと一緒にボスがいるというその建物へと向かった。


やっとそこで緊張し始めた私は改めて背筋を伸ばして、敵と話すための気持ちを整えた。


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