第32話 遠征に出発!


善は急げと言わんばかりに、ラルフさんはその次の日にワシライカに向かう手筈を整えてくれた。ワシライカはここから日帰りで行ける場所にある。でも行って交渉して帰ってきたら、帰りは夜遅くなってしまう。子供たちが起きている時間には帰ってこられないだろうなと思うと、何だかすごく申し訳ない気持ちになった。



「みんな、行ってくるね。」

「うん!まま頑張って!」

「悪いやつやっつけてきてね!」



でも私の心配をよそに、カイもケンも元気よく送り出してくれた。ルナも「ばいばぁい」なんて言って明るく手を振ってくれたもんだから、こっちの方が寂しくなりそうだった。



「それじゃあ、よろしくね。」

「うん、任せて。」



エバンさんはラルフさんがこの街を不在にするから、ここを留守にするわけにはいかない。それに子どもたちの面倒も見てもらわなきゃいけないから、今回はお留守番してもらうことにした。



「リア…。」



エバンさんはまるで自分が遠征に行くときみたいに、寂しい顔で私の頬を撫でた。私はエバンさんの手に自分の手を重ねて、にっこり笑ってみせた。



「心配しないで。しっかりやり遂げてくるから。」



エバンさんの心配がそこではないってことはわかっていたけど、あえてそう言った。するとエバンさんは案の定「そういうことじゃない」と言ながらも、愛おしそうな目で笑った。



「こっちのことは心配しないで。今日はティーナも泊ってくれるし、きっと大丈夫だよ。」

「お泊り会みたいで楽しくなりそうね。」



子どもたちは私が今日帰ってこないかもしれないなんてこと忘れて、すでにティーナとティーナの息子のライル君と楽しそうに遊び始めていた。それが本当に楽しそうだったから、やっぱり行くなんて言わなきゃよかったかなと早くも思い始めた。



「リア。行こうか。」

「はい。」



私の方が名残惜しい気持ちを抱えたまま、ラルフさんと一緒にウマに乗った。分かってはいたことだけど義父と密着してウマに乗るっていうのは、なんだか少し照れくさかった。



「ごめんな。」



出発してしばらくしたころ、唐突にラルフさんが言った。

驚いて振り返ってみると、ラルフさんは本当に申し訳なさそうな顔をして私を見ていた。



「遠くに…、それに地方の方まで行かせてしまって。」



子どもたちを置いてきてしまったことに関しては、確かに後ろめたさを感じる。

でもそもそも行きたいと言ったのは私だし、それにはじめていく場所に行くというのは、やっぱりすごくワクワクすることだ。



「いえ、楽しみです。」



だから正直に今の気持ちを口にした。

するとラルフさんは今度は驚いた顔で私を見ていた。



「知らないことを知れるという事は、私にとっては楽しみなことです。知らない場所に行って知らない景色を見るのは、いつだってワクワクします。」



山賊のボスとお話しに行くんだから、ワクワクする場合ではないのは分かっている。

でもずっと緊張していたら疲れてしまうから、今くらい楽しい気分を味わっておこうと思った。するとラルフさんは私の言葉を聞いて、「ふふ」っと笑った。



「心強いな。」



ラルフさんはにっこり笑って言った。

その瞳がエバンさんと同じように暖かく燃えていて、彼が自分の義理のお父さんだってことも忘れて、思わず見入ってしまった。



「それは私のセリフです。」



でもそれは、まぎれもなく私のセリフだった。



「ラルフ様に守ってもらえると思っているから、私はこんな風にのんきにワクワクしていられるんです。」



絶対に守ってくれる。

そんな安心感があるから、私はまだ緊張することなく流れる景色を楽しんでいられるんだ。



「そうだな。」



ラルフさんは笑った顔を崩すことなく言った。



「何があっても守るから、君は安心して、したいようにしてくれ。」



ラルフさんは義理のお父さんなのに、まるでパパと一緒に戦いに行っているような気持ちになった。

こんな図々しいことを考えていいものなのだろうか。ダメだと思ってももう感じてしまっている私は、安心感で満たされている胸のまま流れていく景色を眺めた。



広大な自然を見ていたら、争いが起きているなんてことは忘れてしまいそうだった。

どうせその場面になったら私は緊張するんだろうから、今はこの穏やかな気持ちのまま初めての景色を堪能することにした。

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