第31話 騎士王への報告



「ワシライカ地方の賊を覚えてる?」

「ああ、もちろんだ。」



そして次の日。

私は早速ラルフさんと話す機会をもらった。エバンさんがあの山賊たちのいる地方の名前を口にした瞬間、ラルフさんは眉間にしわを寄せた。



「実行犯はあいつらだったんだ。」



エバンさんの言葉を聞いて、ラルフさんは分かりやすく「はあ」とため息をついた。



「ボスが変わったという話は、何となく耳にしていた。」



するとラルフさんは、とても苦しそうにポツリポツリと話を始めた。いつも勇ましくて堂々としているラルフさんが悲しい顔をしていると、私まですごく悲しい気持ちになり始めた。



「すぐに会いに行けばよかったんだ。会いに行くだけで少しは抑止力になるはずだから…。」



ラルフさんのいう事はその通りだと思う。

昔ラルフさんは大きな恩を売っている以上、会いに行くだけでも彼らの行動を止められたのかもしれない。



「本当にごめん。あの子たちにももう、なんて謝っていいのか…。」



かと言って会いに行かなかったから今回のことが起きてしまったのかと言われたら、それは絶対に違う。悪いのは行動を起こしたアイツらで、さらに言えば行動を起こさせた黒幕だ。



「やめてください、本当に。」



謝られるのをだいたい想像していた私は、食い気味に言った。するとラルフさんは申し訳ない顔のまま、私の方を見た。



「私、勝手に約束してきたんです。」



申し訳ない顔をしているラルフさんに言った。

するとラルフさんはそういえばって顔をして、「どんな約束だい?」と聞いてくれた。



「実際彼らは、ただの実行犯でした。家族を人質を取られているらしく、今回のことを実行すれば、人質を返し、生活に充分なお金と土地を渡すと言われてやったそうです。」



ラルフさんは納得した様子で、「なるほど」と言った。

それだけの説明で納得してもらえたことに内心ホッとしながら、私は「はい」とうなずいて話を続けた。



「だから今回のことを話すことを条件に、人質をディミトロフ家が助けること。そして苦しい生活を立て直す約束までして参りました。」

「僕も、勝手に約束する許可を出したんだ。」



私に同調するようにして、エバンさんが言ってくれた。ラルフさんはその間もずっと、少し悲しそうな顔をして私たちを見ていた。



「私のようなものが、身勝手な約束をしてきました。だから今回のことはお互い様、ということにして、お許しいただけませんか?」

「リア…。」



あくまでも“お互い様”という事を強調したくて、昨日と同じことを言った。

それでもラルフさんはずっと申し訳ない顔をしていたけど、私も本当に申し訳なさそうな顔をして見返すと、「もちろんだよ」と言って笑ってくれた。



「ありがとう、ございます。」



本当はこんな約束を勝手にして来たら、怒られてもしょうがないと思う。っていうか家を追い出されてもしょうがないくらいだと思う。でも笑顔で受け入れてもらえる環境に、私は本当に感謝しなくてはいけないなと思った。



「彼らは生活が苦しいと、言っていたのか?」

「ええ。」



するとラルフさんは、考え込んだ顔をして言った。何か思い当たることでもあるのかなと、次の言葉を待った。



「昔、俺はやつらに、生活できるだけの領地や仕事を与えたはずだ。」



エバンさんに聞いた話によると、ワシライカ地方というのは昔、無法地帯と言えるほど荒れている場所だったらしい。その地方に近づくことはが出来ないことはもちろん、近くの街も次々と襲われて行ったらしく、それを見かねたラルフさんが山賊たちをまとめあげたと言っていた。



「現状それがどうなっているのかも、聞かないといけないな。」

「そうですね。」



ラルフさんは少しやる気になった顔をして、そう言った。私たちも強い目をして彼を見返して、大きくうなずいてみせた。



「人質が取られているというなら、早くしなければな。明日にでもワシライカに向かって話を聞こう。」

「あの…。」



明日と言わず、今日にでもワシライカに行ってしまいそうなラルフさんに恐る恐る声をかけた。するとラルフさんは不思議そうな顔をして、私を見た。



「私も、連れて行ってもらえませんか?」



ラルフさんはとても驚いた顔をして聞いていたけど、エバンさんは予想通りって様子でため息をついた。そろそろ呆れられそうな気もしたけど、それでも私は言葉を止められなかった。



「マントさん…ではなく…。実行犯の中のトップと、私は直接約束を交わしています。それに今回のことの事件のおおもとの原因が、私にあるような気がするんです。」



私を売ろうとしていた彼らが、どうやってそのルートを開拓したのか気になった。背後にあるものはすごく大きな組織のようなもので、本当の目的は"私を売ってお金を得る"ことではないような気がしていた。



「それが何なのか、突き止めたいんです。」

「でも…。」



何より自分で行きたかった。自分で行ってこの目でこの耳で、問題の根本をはっきりさせたかった。するとラルフさんはとても悲しそうな顔をして「でも」と言った。



「リアは…。」

「父さん。」


怖くないのかと、聞かれそうになったんだと思う。

するとそんなラルフさんの言葉を遮ったのは、私ではなくエバンさんだった。



「リアは自分で行かないと気が済まないんだ。だから行かせてあげてほしい。」



まるで私の気持ちを代弁するかのように、エバンさんは言った。

何だか口に出さなくても以心伝心で来ていることが、すごく嬉しく感じられた。



「分かった。連れて行こう。」

「もちろん僕の団をついて行かせるからね。」



気持ちは理解していても、心配なものは心配。

エバンさんはそんな顔をして、私に言った。


私はそんなエバンさんに、"いつもごめんね"という気持ちをこめて、「ありがとう」と言っておいた。


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