二十五歳-2 宣戦布告
第29話 テムライムに帰国
それからすぐに、テムライムに帰ることにした。
怪我が治るまでゆっくりすればいいとみんな言ってくれたけど、人質を助けるという約束をした以上、早く帰って対策をしてあげたかった。
「それじゃ、帰るね。」
本当はリオレッドに残って、また関税のことを話して帰りたいくらいだった。
でも王様に承認を得るまではそんなわけにもいかない。こんなふわっとした状態で返らなきゃいけないのが気にならないわけではないけど、優先順位を守って仕事をするのってすごく大事だよって元社会人の私は言っている。
「気を付けてね。」
あんなことがあった後だから、パパもママもとても心配そうな顔をしていた。私は二人にも子供たちにも心配をかけないように、精いっぱいの笑顔で「大丈夫!」といった。
「アル、ジルにぃ、ウィルさん。今回は本当にありがとう。」
三兄弟にはいつも助けられてばかりだ。
今回私の居場所を突き止めてくれたのはウィルさんらしいし、アルやジルにぃがいなくちゃ、もっと大変なことになっていた。
改めてお礼を言うと、三人は同じような顔をして笑ってくれた。
「リア。たくましいのはいいけど、ほどほどにね。」
どういう意味かわからないけど、ジルにぃが心配そうな顔でいった。私は一応その言葉に「うん!」とだけ返事をして、船に乗った。
「またすぐ来るからね~~!!」
リオレッドきっとすぐに帰って来ることになると思う。でも今度の帰省は、あまり楽しいものにならないかもしれない。
「ばいばぁい!」
「またねぇ!」
すっかりリオレッドに慣れた子どもたちも、元気にみんなに手を振った。私たちはみんなが見えなくなるまで大きく手を振って、すぐに笑顔で再会できることを願った。
「リア。」
リオレッドが見えなくなって船で子どもたちが遊び始めたのを見届けた後、エバンさんが私を呼んだ。
何だろうと思ってエバンさんの方を見ると、彼はすごく困った顔をしていた。
「つかまってるとき、喧嘩を売ったらしいね。」
そんなことしたっけ?と思い返してみた。
すると確かに記憶の中から自分が啖呵を切ったシーンがよみがえってきた。
「なんで、知ってるの…?」
「ジルさんから聞いた。」
なんだよジルにぃ。そのシーンからいたなら早く助けてくれよ。
っていうかあのシーンで啖呵切るとか、マジで私ってアホだな。
言われてみてやっとそう自覚すると、エバンさんはやっぱり困った顔で笑った後、手を私の頭にポンと置いた。
「頼むから、危ないことしないで。心臓が持たないよ。」
エバンさんが本当に心配そうな顔で言うから、私は「はぁい」と歯切れの悪い返事をした。今は言う通りにしようって思ってるけど、同じシーンになったらまた喧嘩を売ってしまうかもしれないから約束しきれない。
「はぁ。」
すると私の気持ちを察したみたいに、エバンさんが大きなため息をついた。
私はそんなエバンさんににっこり笑って見せて、「ごめんね」と一応謝っておいた。
☆
子どもたちと遊びながら船に乗っていると、いつもよりすぐについた感覚がした。テムライムに着いたら何だか"帰ってきた"って感覚がすごくして、この5年で私もすっかりテムライムの人間になったなと感じた。
「リア…。」
テムライムに着いて早々に、家に帰った。
するとラルフさんもレイラさんも、玄関先で私たちを出迎えてくれた。
「ただいま、かえりました。」
今にも泣きそうな顔をしている二人に、いつも通り丁寧に言った。すると二人は私を同時に抱きしめて、「ごめんね」と謝った。
「お二人が、謝ることじゃないです。」
二人に謝られる事なんて本当にないもない。でもラルフさんは私の言葉を「そんなことない」と言って否定した。
「テムライムの人間が起こしたことだ。君の故郷で君を危険な目に合わせてしまった。本当に申し訳ない。全て私の責任だ。」
ラルフさんはそう言って頭を深く下げた。私は急いでラルフさんの肩を持って「やめてください」と言った。
「私も勝手にしてきた約束があるんです。ディミトロフ家にかかわる決断なのに、勝手に私が約束を進めて帰ってきました。」
ラルフさんはそんなのいいって、きっと言ってくれる。でも大事なことを勝手に約束してきたことも、まぎれもない事実だ。
「だからそれでお互い様ってことに、してもらえませんか?」
とても図々しいお願いだってことはわかっていた。
でもラルフさんはやっとで笑って、「なんだろう」と言ってくれた。
「父さん、とりあえず今日は疲れてるから…。」
「ああ、そうだな。」
エバンさんの言葉にハッとしたラルフさんは、じゃれつく子どもたちを一気に抱き上げてくれた。私は体を引きずりながらなんとか部屋に戻って、そのままの勢いでベッドにダイブした。
「元気になったね。」
「うん。」
そんな私を見て、エバンさんはあきれた様子で言った。
でもその声が何となく嬉しそうだったから、ダイブしてよかったって思うことにした。
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