第21話 優しさは、強さになる
次に目を覚ますと、見慣れない天井が目に入ってきた。
見慣れないけど、ここは実家の客間だ。頭がそう認識し始めた時、体の横に何か暖かいものがあるのが分かった。
そちらの方に目線を落とすと、右わきでカイが寝ていた。そして左ではケンとルナが寝ていて、寝返りを打てないほど、ベッドが狭かった。
「…リア?」
そのとき不意に誰かに呼ばれた。
声のする方を見て見ると、そこにはアルが立っていた。
「私…。」
「大丈夫、まだそんなに寝てないよ。」
どのくらい寝てしまったのかと聞こうとすると、アルが先に答えた。私は「そっか」とだけ言って、寝ている3人の頭を撫でた。
「怖い想い、させちゃったよね…。」
「お前のせいじゃない。」
アルは相変わらずぶっきらぼうな顔をして、そう言った。そんなアルの頭にも、痛々しい包帯がまかれていた。
「ケガ、大丈夫…?」
そう言えばアルはこの家で殴られたはずなのに、その後すぐに助けに来てくれた。血がたくさん流れていたから大丈夫かと思って聞くと、アルは少し怒った顔で私を見た。
「自分の心配しろ。人の心配なんて、すんな。」
アルのその言葉が、「大丈夫?」と聞かれているように聞こえた。
いつだってアルは不器用で言葉が足りないけど、本当はとても優しい人だ。
「ありがとう。」
ごめんの代わりに、お礼を言った。
するとアルは「わかったから」と言って、ベッドの横の椅子に座った。
「わかったから、もう少し寝ろ。」
「うん。」
アルに言われて、私はもう一度目を閉じた。頭のどこかではあの人たちが誰なのかって気になっていたけど、一旦それは忘れることにした。
☆
「まま?」
「まま?」
「おい、お前ら。もう少し…。」
今度は愛おしい声で、私は目を覚ました。
目を開けるとベッドをカイとケンがベッドの両脇で私を覗き込んでいて、ルナは相変わらず私のベッドに寝転んでいた。私を起こさないようにってアルが焦ってみんなに声をかけていたみたいだったけど、その努力もむなしく、私は目を覚ましてしまった。
「カイ、ケン、ルナ。」
「ままぁ!!」
三人は目にいっぱい涙をためて、一斉に私に抱き着いた。私は何度も「ごめんね」と言って、三人を抱きしめ返した。
「まま、いたい?」
するとルナが、私の顔のガーゼを撫でながら言った。私は「ううん」と言って、ルナの手に自分の手を重ねた。
「ルナがなでなでしてくれたから治っちゃったよ。」
「いたいのいたいの、とんでけ~!」
我が家では定番になった前世のおまじないをルナはしてくれた。その優しさが傷ついた胸にしみて、涙になってあふれだした。
「まま、やっぱり痛いの?」
今度はカイが心配そうな顔をして言った。私は体を起こしてカイをギュっと抱き締めなおした。
「ううん、痛くない。大丈夫。」
「よかったぁ。」
それを聞いたケンも、私の方に寄ってきた。私は二人まとめて抱きしめて、「カイ、ケン」と名前を呼んだ。
「ルナとばぁばを守ってくれて、ありがとうね。」
きっとたくさん怖い想いをさせてしまった。それも全部私のせいだ。
自分が傷ついたことより、誰かを不幸にしていたという事実より、子どもたちを怖い目に合わせてしまったという事が、一番苦しかった。
たくさんの後悔に襲われながら抱きしめる手を強めると、カイとケンは「まま」とほぼ同時に言った。
「僕、もっと強くなる。」
「アルみたいに、かっこよくなる。」
二人の目にはまだ涙がいっぱい溜まっていた。それなのにまっすぐ私の目を見て、しっかりとした口調で言った。
「そっか。」
自分が思っているよりずっと、子どもたちがたくましくなっていることに驚いた。
怖かったはずなのに、そんな風に思ってくれることがすごく嬉しかった。
「ありがとう。」
二人は親の私も知らないうちに、とても優しい子に育ってくれていた。
優しさは、いつか強さになる。
きっとこれから二人は私が想像しているより強くて優しい子に育ってくれるんだろうなと思うと、将来のことがもっと楽しみになり始めた。
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