第16話 お話を、しませんか


「…おい、お前。そっちちゃんと見張れ。」

「分かってる!」



次に意識を取り戻すと、私はどこかの倉庫のようなところに横たわっていた。さっきは何か薬みたいなものを飲まされたんだろう。そのせいなのかは分からないけど、寝ているのに頭がクラクラするような感覚がした。それに手足はキッチリと縄で縛られていて、長時間地面に寝させられていたからか、体はひんやりと冷え切って寒かった。



それに体のそこら中が痛くて、どこをケガしているのか認識が出来なかった。

冷静な頭で私の前に立っている男たちを見て見ると、その人たちは私をさらった人よりずっと弱々しく見えた。


「なあ、この子…。」



するとその時、一人がこちらを振り返った。

私は様子をうかがうためにもまだ意識を失ったふりをしていようと考えて、一旦目を閉じた。



「寒そう…じゃないか?」

「何言ってんだ!!!!!」



弱々しそうな男の内の一人が、私の心配をしてくれた。

家に入ってきたやつらは極悪そうだったけど、やっぱりこの人たちはちょっと雰囲気が違う。



「こいつのせいで…。」



すると心配した男Aを止めた男Bが、怖い声で言った。

目を閉じていてもBが近づいてくるのが分かって、私は無意識に体をこわばらせた。



「こいつのせいで俺たちは仕事を失ったんだ!!!!!目を覚ませ!!!」

「そ、そうだな…。」



私のせいで、仕事を、失った…?



「どういう、ことですか?」



気になることを言われて我慢が出来なくなった私は、唐突に聞いた。すると男AもBもすごく驚いて私の方を見た。



「お前…っ!」



すると男Bは怖い顔をしてもっと私の方に近づいてきた。そして私の髪の毛を掴んで、顔を上げさせた。



「余計な口叩くなよ!!人呼ぶぞ!」



Bは唇をかみしめながら私を見た。その表情から私を恨んでるってことがすごく伝わってきて、ますます理由を聞きだしたくなった。



「あの…っ、私のせいで仕事を失ったって、どういうことですか?」



掴まれている髪の毛はとても痛かった。余計な口を叩くなと言われた瞬間に余計な口を叩いてしまっている自分を、ちゃんと自覚していた。でも聞かずにはいられなかった。私のせいで困っている人がいるんだとしたら、ちゃんと謝りたかった。



「っっるせぇ!!!」

「きゃあ…っ!」



でもBは私の言葉なんて聞くつもりはないみたいで、そのまま私を床にたたきつけた。手をついて自分の体を守ることも出来ない私は、体ごと床にぶつかった。



「黙れ!」

「…ぅっ。」



無抵抗の私のお腹を、Bは思いっきり蹴った。声にならない声が口から出て、蹴られたところがジンジンと痛んだ。



「こんなことで…っ。」



でも私も負けられなかった。大人しくしていればいいのに、必死になって声を出した。



「こんなことをしても、何も解決にならない…っ!」



この人たちの要求はなんなのだろう。

お金?それとも地位?それともただ私を殺したいだけ?


だったとしたら誘拐なんてする必要がない。何か別の要求を果たすために、私は殺されずにここにいるはずだ。だからもう少しの間殺される心配もないって決めつけて、私はBの方を見た。



「あなたたちはこの後どうするんですか?私を殺したとして、幸せに暮らせる?」



私にはこの人たちが極悪人には見えなかった。

最初のやつらには何を話しても無駄って思ったけど、この人たちには何となく話が通じる気がした。するとBは一瞬動揺した顔をした後、また私を蹴った。



「……っ!」

「お前、その辺で…。」



すると見かねたAが、Bを止めた。

もうそこら中が痛かったけど、私もここで引き下がるわけにはいかなかった。



「お話を、しませんか。」



今出せる一番大きな声で言った。

でもお腹を蹴られているせいか、あまり大きな声が出なかった。



「暴力で解決することなんて、何もありません。話を…。どうか聞かせてください。お願いします。」



例えばこの誘拐がうまく行って何か野望が果たされたとして、この人たちはすっきりして今後の人生を送れるんだろうか。私を殺したとして、恨みが晴れるんだろうか。



やってみないと分からないと言われたらそれまでなんだけど、話し合いで解決できることがあるのなら暴力なんてふるうべきではない。それに暴力を振るったところで、きっと気持ちは晴れない。


その証拠にBさんは、今すごく複雑そうな顔をしている。



「話をしてそれでも私をどうにかしたいのなら、構いません。好きにしてください。」



そんなこと本当は思っていないけど、何も知らずに殺されるよりは、状況を把握してから死にたい。

恐怖で体が震えている感覚を何とかおさえながら声を絞り出すと、Bの後ろで私を見ていたAが、「実は」と声を発した。

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