第14話 え、ここに来てサイドストーリー?
マント男はほとんど裸になった私の腰をがっちりと持って、そして首元にナイフを当てた。その間に子どもたちはアルの元に走って行って、アルの足元に抱き着いた。
「お前…っ。」
震えている二人を両手で抱えながら、アルは見たこともないくらい怖い顔をしてこちらを見た。男はそんなアルをあざ笑うかのようにクスクス笑った。
「情けないねぇ。」
「ゆっるさねぇ…っ。」
アルはそう言って、腰のところにある剣に手をかけた。
でも私にナイフが当てられている以上それ以上の行動が出来ないみたいで、柄の部分をギュっと握ったまま、男をにらみつけた。
「団長!」
「くんな!」
ちょうどその時、玄関を突き破った騎士団員の人が家に入ってきた。アルはほぼ裸みたいな格好をしている私に気を使ったのか、団員を入口で止めた。
「ケン、カイ。あのおじさんたちのところに走れるな。」
アルが子供たちを諭すように言うと、二人はうなずいてそのまま階段を駆け下りた。団員の人たちが二人を抱き上げてくれるのを確認して、私はひとまずホッとした。
「騎士団長さんよぉ。変な動きしたらどうなるか分かってるよな。」
首元にたらりと、暖かい血が流れる感覚がした。
私という人質を取られて、アルは動きを止めるしかなくなって、戦闘態勢のままその場で固まった。
「ぐ…っ。」
するとその次の瞬間、背後で大きな音がした後、今まで私の首に腕を絡めていたはずのマント男の力が抜けた。何が起こったんだと思って後ろを振り返ると、そこにはリオレッド騎士団の服を着た男の人が武器を持って立っていた。
――――助かった。
安心感で一気に力が抜けそうになった。でも何とか足を前に出して、アルの方向へ進もうとした。
「リアっっ!!」
するとアルはとても必死な顔をして私の名前を呼んだ。騎士団の人が敵のボスっぽい人を倒してくれたからひとまず安心のはずなのに、まるでまだ何も終わっていないかのような、切羽詰まった顔だった。
「お前…っ、誰だ!」
そしてアルはその必死な顔をしたまま、背後の人に言った。私はなにが起こっているか全く把握できなくて、ただ茫然とその場に立ち尽くしていた。
するとその時、背後にいた騎士団の人が私の手を引いた。
と思ったら、それとほぼ同時に玄関の方からバタバタとまるで人が倒れているかのような音がいくつも聞こえてきた。
「え…?」
訳が分からなくなって、私は恐る恐る玄関の方へと視線を向けた。するとさっきまで戦っていたはずのリオレッド騎士団の人たちも襲撃者の人たちも、重なるようにしてその場に倒れていた。
「ア、ル…?」
一体なにが、起こっているの…?
そう聞こうとした瞬間、割れた窓の方から誰かが近づいてくるのが見えた。
「お前、リアを…っ」
「アル、後ろ…っ!!」
アルが声を発すると同時に、私は後ろに誰かが来たことを伝えた。するとアルが振り返ったと同時に、その人は何か棒状のものをアルの頭めがけて振り下ろした。
「ぐ…っ。」
「アル…!!!!!」
アルはその場で、膝をついて倒れた。その光景を見て思わずアルの方に近づこうとすると、私の手を引いていた騎士団員がグッと私の体を自分の方へと引き寄せた。
「あなた、何なの?!?アルを早く助けなきゃ!」
団長のピンチなのに、一体全体何をのんきなことをしているんだ。すると私の言葉を聞いたその人は、なぜかニヤリと不気味に笑った。
「たいしたことないなぁ、リオレッドの騎士団ってのは。」
「え…?」
何を言っているのかさっぱり分からなくなって、頭が真っ白になった。恐る恐る振り返ってみると、後ろに立っていた男は着ていた騎士団の服をビリっと破いた後、また不気味な笑顔で笑った。
「初めまして、お嬢様。」
そしてそう言って、私の目の前でひざまずいた。この人が誰なのか何を言っているのか全く見えなくて、立ち尽くしたままその男の不気味な瞳を見つめ続けた。
「お迎えに上がりましたよ。」
「迎えにって…。」
なんなの?もしかして私はまだ知らない国のお姫様とかで、産まれた時にさらわれてリオレッドに来た…とかそういうサイドストーリーでもあるんだろうか。
いや、そんなわけはない。私が初めてこの世界で認識したのは、まぎれもなくママの暖かい腕の中だった。はず。
頭の中がぐちゃぐちゃで、当分整理がつかなそうだった。そんな状態のまま立ち尽くしていると、男は「ははは」と笑った後、私の髪の毛を引っ張ってアルの元へと近づいて行った。
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