第10話 アルと私
「それじゃあ、また来ます。」
「うん。いつでも来てね。」
「カイ君、ケン君。また来てね。」
しばらくそこで遊ばせてもらっていたけど、夕方になってルナも疲れ果てて寝てしまったから、私たちはおとなしく家に帰ることにした。みんなにすっかり打ち解けてしまったカイもケンも全力で手を振って、私も一緒に馬車に乗り込んだ。
「リア、送ってく。」
するとアルが私と一緒に馬車に乗り込んできた。
ただ乗っているだけで家に着くからわざわざいいのにって思ったけど、そう言ったところでアルが降りてくれない性格をしているのは分かっていた。
「ありがとう。」
素直にお礼を言うと、アルはやっぱりぶっきらぼうな顔で「おう」と言った。そして運転手さんはアルが座るのを確認して、馬車は出発させた。
カルカロフ家御一行は私たちが見えなくなるまで手を振り続けてくれていた。そんな風に暖かくお見送りしてくれたのが嬉しくなって、私も子供みたいに大きく手を振った。
「あれ、寝ちゃった。」
カイとケンはしばらくアルと楽しそうにお話していたけど、そのうちすぐに眠そうな顔になって、気づいたら寝てしまった。二人で肩を寄せ合って寝ているのが可愛くて、私もアルもそれを見て同じトーンで笑った。
「似てるな、お前に。」
アルはそれだけ言ったけど、カイはどう見てもエバンさん似だ。
でも似てると言われたことに嫌な気持ちもしないから、「かわいいでしょ?」と調子に乗って言った。
「そうだな。」
自分で言うなよと言われると思ったのに、予想に反してアルは私の言葉を肯定した。珍しいこともあるもんだなって思ってアルの方をみると、アルはカイの頭を愛おしそうに撫でた。
「お前…さ。」
今度はケンの頭を撫でながら、アルはボソッと言った。
何だろうと思ってみていると、アルは少し複雑そうな顔をしていた。
「大丈夫、なんだよな。」
もしかしてホームシックになったとき、アルにもその話が伝わってたのかもしれない。何となくそれを察した私は、少しでもアルを安心させようと、「うん」と素直に答えた。
「みんなもよくしてくれるし、元気にやってる。」
あの時は確かに心が病んでいたけど、それでも別にいじわるされてやんだわけではない。ただ一人でうじうじしていただけでここまで人に心配をかけていたこと、改めて後悔した。
「幸せ…なんだな。」
アルは私の顔をチラっと見た後、珍しく笑って言った。でもその顔が少し複雑そうに見えて、私まで複雑な気持ちになってきた。
「幸せだよ、すごく。」
だからと言って中途半端なことを言えば、アルの気持ちはきっといつまでも前に進めない。だからはっきりとそう答えると、アルは泣きそうな顔で笑って「そっか」と言った。
――――本当にありがとう。
そして、ごめんね。
「俺連れてくわ。」
それからしばらくして、無事に馬車が家に到着した。両手でルナを抱えている私の代わりに、アルはとりあえずカイを抱えて家に入ってくれた。
「ありがとうございます、坊ちゃま。」
「アシュリーさん、その呼び方はもうやめてくださいよ。」
カイとケンをママとメイサに手渡した後、アルは照れた顔で言った。
ママ曰く、ママから見ればアルは出会った頃のままの子どものように見えるらしく、"アラスター様"っていうのがしっくりこないらしい。共感する。
「送ってくれてありがとう。」
「おう、またな。」
アルはそう言って、颯爽と去って行った。
私はドアが閉まったのを確認した後、今度はルナをベッドに連れて行こうとした。
トントントンッ
すると今しまったばかりの玄関をノックする音がした。
こんなすぐに新しいお客さんかなと思ってドアに近づこうとすると、私が開く前にドアが開いた。
「アル、なに?忘れ物?」
開いた扉の向こうには、アルが立っていた。
こんなにすぐまた扉をノックされるなんて。もし忘れ物をしたとしたら私の方なんだろうけど、定型文みたいに口からそのセリフが出てきた。
「そうそう、忘れ物忘れ物!」
するとアルはなぜか少し大きな声でそう言いながら、家の中に入ってきた。アルがすごく怖い顔をしている気がして、私も思わず無言になった。
「リア。」
ドアが完全に締まったと思ったら、アルはやっぱり怖い顔をして私の両肩を持った。
「お前今日、家から出んなよ。」
「え?」
予想外の言葉が出てきたことに驚いて、思わず間抜けな声がでた。
もう家から出る予定なんかないけど、急にどうしたんだろう。アルがこんな怖い顔をしていること自体珍しくて、私はアルの顔を見たまま固まった。
「今日ゴードンさんは?」
「仕事でいないけど…。」
パパは昼頃から出張に出かけると言っていたから、今この家には私とママ、そして子供たちしかいない。それがなんだと思いながらまだ怖い顔をしているアルに、「どうしたの?」と聞いた。
「何にもないけど、とりあえずもう家から出んな。」
「う、うん…。」
「あと俺が出てったらドアの鍵も閉めろ。できればアシュリーさんも一緒に寝るんだ。」
「どうしたのよ、本当に。」
「いいから。」
訳が分からないまま、アルは「分かった?!」と念押しして家を出て行った。
なんでそんなに怖い顔をしているのかはよくわからないけど、私はとりあえずアルの言う通り家のドアをしっかり戸締りして、今日はママに部屋で一緒に寝てもらうことにした。
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