第9話 レイムの花みたいに



それからしばらく、テレジア様とデイジーさんと3人でガールズトークをしていた。カイとケンは相変わらずジルにぃとアルが相手をしていてくれたし、そのうちジルにぃの子どもたちも遊びに来てくれて、何だか楽しそうにじゃれ合ってくれていた。



「リア。」



するとその時、後ろから不意に名前を呼ばれた。それに反射して振り返ってみると、そこには怖い顔をして立っているゾルドおじさんがいた。



「おじ様…っ!」



久しぶりに見るゾルドおじさんの顔は、すごく迫力があるように見えた。

でもその迫力ある顔とは反対に心はとても優しいってことを知っている私は、おじさんの方へと駆け寄った。



「お久しぶりですっ。」

「ああ、元気だったか。」



おじさんはパパがしたみたいに、頭を優しくなでてくれた。

なんだか子どもの頃に戻ったみたいな気持ちになった私は、元気よく「はいっ」と返事をした。



「おじ様。娘です。」



胸に抱いていたルナはやっぱりおじさんが怖いみたいで、私の胸にギュっと抱き着いた。私はルナをそっとはがして、目を合わせた。



「ルナ。おじさんとっても優しいんだよ。ママも大好きな人なの。」



私の言葉を聞いたルナは、恐る恐るおじさんをみた。でもやっぱり怖かったみたいで、すぐにまた私の胸へうずくまってしまった。



「あの日…。」



するとおじさんは、そんなルナを見て穏やかな顔で言った。



「リアに会ったあの日のようだな。」



さっきジルにぃに言われたそのままのことを、おじさんにも言われた。やっぱり親子なんだなって思った。



「リアもこんな風に、ゴードンの後ろで震えてた。」

「私は震えてなんかないわ。隠れてただけで。」

「いや、震えてたぞ。」



すると遊び疲れたのか、息を切らしたカイを抱いたアルが近寄ってきて言った。アルも昔みたいに、いたずらそうな顔をしていた。



「お前小さかったしな!」

「当たり前でしょ、まだ5歳だったんだから。」



それにおじさんめちゃくちゃ怖かったし。



その時ちょうどケンと一緒に戻ってきたジルにぃが、「お前はいつまでも子供だな」とアルに言った。私も同じ意見だったけど、言えばまた何か言い返されると思って、黙っていてあげた。



「アル!もっかいやろ!」



するとケンが、生意気にアルに言った。

「アルおじ様」でしょと言おうとしたけど、アルが嬉しそうに笑って「よし、行くか!」なんて言ってるもんだから、もう二人の好きにしてあげることにした。



「おじ様、最近はどうですか?お仕事は引退されたって聞いてますけど…。」



そんなことより、久しぶりに会ったおじさんとお話がしたかった。

数年前、おじさんは騎士王の地位をジルにぃに譲って引退したっていう話は聞いた。するとおじさんは私の言葉にゆっくりうなずいて、「ああ」と言った。



「毎日することもなくて、孫たちに相手してもらっているよ。」

「それだけじゃないでしょ?」



話を聞いていたジルにぃが、ニコニコ笑って言った。

それでもおじさんが何も言いださないのを見て、ジルにぃは「はぁ」と一つため息をついた。



「今、母さんの庭は父さんが手入れしてるんだ。」

「お花の手入れを、おじ様が…?」



よっぽど恥ずかしかったのか、おじさんは頬を赤らめていた。

こんな大きな男の人が可愛いお花の世話をしていると思ったら、聞いている私もちょっとおかしくなってしまった。



「見て、いくか?」



するとおじさんは、少し恥ずかしそうに言った。

私はその言葉に大きくうなずいて、「見たい!」と元気に言った。


おじさんはやっぱり少し恥ずかしそうだったけど、私とルナを自分が手入れしているお花の場所に連れて行ってくれた。そこにはあの頃と変わらずたくさんのキレイな花が咲いていて、素人の私でもしっかり手入れされていることがよく分かった。



「ルナ、見て。お花すごくキレイね。」



まだ私にしがみついているルナに言った。するとルナはゆっくりと花の方に顔を向けた。



「かわいい、白いおはな。」



ルナが手を伸ばそうとしたから、私はそっと地面にルナを降ろした。



「おじさんがお水をあげてるんだって。」



花に手を伸ばしたルナに言うと、ルナは恐る恐るおじさんの方をみた。おじさんはやっぱり怖い顔をしていたけど、ルナに向かって「いるか?」と聞いてくれた。



「おじ様、いいよ。こんなにキレイに咲いてるのに。」


もったいないから大丈夫と伝えようとすると、おじさんは「いや」とそれを否定した。そして腰のあたりからハサミを取り出して、いくつか花を切り取った。



「どうぞ。」



ルナはおじさんの手から、そっと花を受け取った。そして消えそうなくらい小さい声で、「ありがと」と言った。



「ルナ、そのお花。レイムっていう名前なんだよ。」



おじさんが丁寧に育てていたのは、レイムの花だった。

レイムの花はあの日と変わらずキレイにそこに咲いていて、純白の小さな花が風に揺れてとてもキレイだった。



「レイム?」

「そう。花言葉は、"信頼"。」



ルナにはまだ少し難しいだろうけど、言葉にして伝えたかった。

するとルナは手に持ったレイムの花をジッと見て、「ままみたいだねぇ」と一言言った。



「本当に、そうだな。」



おじさんはルナに同調して言った。

私はあの日じぃじが部屋に飾ってくれたレイムの花みたいには、まだなれていないと思う。でもそう言ってもらえたことがすごく嬉しくて、レイムの花ごとルナを抱きしめた。


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