第8話 私の帰る場所


「リアちゃん!」

「テレジア様!」



家の前ではテレジア様が待っていてくれた。久しぶりに会うと、美しさの破壊力が抜群すぎてめまいがしそうになった。



「待ってたわ、待ちくたびれてたの!早くお話ししましょう!やだっ、その子がルナちゃんね。リアちゃんにそっくりじゃないっ。可愛いわ、本当に天使…」

「テレシー。」


興奮してお話が止まらないテレジア様を、ジルにぃが何とか止めた。

するとテレジア様は「ごめんなさい」と無邪気な顔をして笑って、子どもたちに挨拶をしてくれた。



「お前が来ると相変わらずうるさいな。」



みんなでワイワイと話していると、家の方からぶっきらぼうな声が聞こえてきた。この愛想のない声ですら、懐かしくて心がほっこりする。私はゆっくりと立ち上がって、声のする方を見た。



「アル…。」



相変わらずのぶっきらぼうな立ち方で、アルはそこに立っていた。

なんだか弟に会ったみたいな気持ちになった私は、思いっきりアルにも抱き着いた。



「ただいま!」

「おか…えり。」



アルはやっぱりぶっきらぼうだったけど、頭をポンポンと叩いてくれた。

そんなことも出来るようになったのかと思わず感動した私は、体を離して「大人になったね」と言った。



「年下だろ、お前の方が。」

「精神年齢はリアが上だと思うけど。」

「ウィルさん!」



すると今度はウィルさんが、家の中から登場してきた。

大好きな人たちに一気に会えて本当に嬉しくて、私はウィルさんにも飛びつくように抱き着いた。


「リア、おかえりなさい。」

「ただいま帰りました。」

「あの…。」


するとウィルさんの陰から、女の人が出てきて私に頭を下げた。



「あ、すみません!初めまして…いや、お久しぶりです…かな?」

「そうですね。お久しぶり、です。」



その人はウィルさんの奥さんのデイジーさんだった。

デイジーさんはルミエラスに行った時パンケーキ屋さんで働いていたウエイトレスさんで、二人は私とエバンさんが結婚して少ししてから、結婚することになったと聞いていた。



「あの…。ありがとうございます。」

「え?」



何もしていないのに、急にお礼を言われて驚いた。

するとウィルさんが笑いながらデイジーさんに近づいてきて、彼女の腰を抱いた。



「僕たちが結婚できたのは、君のおかげみたいなところがあるからさ。」

「私の…おかげ?」



デイジーさんと会ったのはあの日一回だけだし、結婚するとは聞いたけど、私は結婚式にすら出られなかった。なのにどうして?と不思議に思って二人を見ていると、二人は一度見つめ合ったあと、私の方を見た。



「リアとエバン君が結婚してくれたおかげで、国境を超えた結婚のハードルがずいぶん下がったんだよ。それに君たちのことを見て、僕もデイジーに告白する勇気が出たしね。」



話を聞いてみても、私のおかげなんかじゃ全くない気がした。

それでも誰かの一歩を踏み出すきっかけを作れたんだとしたら、それはとてもうれしことだ。



「リオレッドは…どうですか?」



同じ国際結婚をした女性として、デイジーさんに聞いてみた。

寂しい想いはしていないか、ホームシックになっていないか。もし私みたいに悩んでいたらって思ったけど、その心配をよそに、デイジーさんは美しい笑顔でにっこり笑った。



「リオレッドはとても素晴らしい場所です。大好きです。」



自分が褒められたわけでもないのに、リオレッドのことをそんな風に言ってくれてなんだか嬉しくなった。心の底から「よかった」というと、みんな同じ気持ちみたいで、同じ顔をして笑っていた。



「まま!訓練は?」



しびれを切らしたケンが、ワクワクした顔で言った。

そんな楽しそうな顔で訓練してくれるなんてたくましいなと思いながら、ケンをアルの前に差し出した。



「このおじちゃんが相手だ!」

「よし!こい!」



私たちにはぶっきらぼうなのに、ケンには最高の笑顔を見せたアルが言った。するとジルにぃが動き出さないカイを抱き上げて、「行くよ!」と言って連れて行ってくれた。



「アル君にもいい人がいればいいんだけど。」



楽しそうにじゃれている4人を見て、テレジア様が言った。でもその言葉を聞いて、すぐにウィルさんが首を横に振った。



「アルはいつまでも、忘れられない人がいるみたいだから。」



ウィルさんは意味ありげな顔をして私を見ながら言った。


本当にそれが原因かはわからないけど、アルはまだ結婚していない。

結婚することがすべてではないから別にそれでもいいんだけど、もしまだ私のことを想ってくれているんだとしたら…。



「なんで…。」

「それだけ初恋って大きいものなんじゃない?」



ひどい事ばかりしてきたのにと言おうとすると、ウィルさんが困ったように笑って言った。



「確かに。今でもジルにぃは特別だし…。」

「リアちゃんの初恋って、ジルさんだったの?」



テレジア様が天然を爆発させたところで、私たちは全員で笑った。

リオレッドには私の帰る場所がたくさんある。そう感じただけですごく心強い気がして、どこにいたって頑張ろうって心の中で再確認した。

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