第7話 久しぶりの再会
デートから数日後。
エバンさんは名残惜しそうにテムライムへと帰って行った。私もエバンさんと離れるのは少し寂しかったけど、まだまだリオレッドにいられるワクワクがその寂しさも少しは紛らわせてくれた。
「まま!今日はなにして遊ぶの?」
「何するのっ?」
毎日新しいことをして遊べるから、カイとケンはすごく生き生きしている。
ルナも随分慣れてきたみたいで、今だってパパの膝の上にドカンと座って、美味しそうにバナナを頬張っている。
「今日はね、訓練だよ!」
今日は久しぶりに、カルカロフ家に行く約束をしている。
みんなにはもう、本当に長い間会えていない。私が一番ワクワクしている気持ちでいたずら心を込めて言ってみると、カイもケンも同時に「え~?」と言った。
「パパいないのに訓練なの?」
「僕…痛いのやだよ。」
嫌そうな顔をするカイを見て、ちょっと意地悪なことを言ってしまったかなと反省した。でも文句を言いながらも戦闘態勢を取ってじゃれている二人を見たら、すごくほほえましい気持ちにもなった。
「いこっか。」
「気を付けていってらっしゃい。」
「じぃじ!ばぁば!いい子にしててね!」
「ふふふ。はいはい。」
何をするにしても、外に出るってだけで気分が上がるらしい。
訓練って言われてさっきまで文句を言っていたはずのケンも、うじうじしていたカイも、生意気なことを言って飛び出すように家を出て、手配していた馬車に乗ってくれた。
「お久しぶりです。」
馬車に乗って、すごく久しぶりの王城の門にたどり着いた。
するとあの頃から変わらない門番のおじさんは、私を見て一瞬驚いた顔をした。
「おかえりなさいませ。」
でもその後すぐにとても穏やかな顔をして、おじさんは言った。
そして馬車に乗っている子どもたちの顔を見て後、もっと穏やかな顔で笑った。
「幸せに、なられたんですね。」
人生で一番辛かった日のことも、とても幸せだった日のことも。
クソ王子に殴られた日のことだって見ていたおじさんは、少しうるんだ瞳で言ってくれた。私ももらい泣きしそうになりながら、「はい」と自信をもって返事をした。
「今日は、カルカロフ家のジル様と約束をさせていただいております。」
「はい、聞いております。どうぞ。」
じぃじが亡くなってしまった今、あの通行許可証はもう使えなくなった。
それでも顔パスで通れるんだろうけど、許可なく通したってことがバレればおじさんの立場が危うくなるかもしれないと思って、事前に申請を通しておいた。
おじさんはあの頃と変わらず門を開いてくれた。そして私もあの頃と同じように「ありがとうございます」と言って、その門を通った。
「リア!」
馬車で進めるところまで行くと、そこではジルにぃが待っていてくれた。
私は大人げなく「ジルにぃ!」と大声で呼んで、近づいてきてくれた彼に思いっきり抱き着いた。
「久しぶりだね。」
「うんっ。会いたかった…っ。」
本当に本当に会いたかった。
ジルにぃがビシッとした格好をしているせいか、子どもたちは少しためらって私の足にしがみついていた。でもそんな子どもたちのことも一旦無視して、私は久しぶりの再会を全身で噛み締めた。
しばらくすると我慢できなくなったのか、カイが私のスカートのすそを引っ張って、「まま」と小さい声で言った。
「ごめんごめん。カイ、ケン。ご挨拶して。」
「はじめまちて!ケント・ディミトロフですっ!」
「カ、カイト…ディミトロフです…。」
定番になってきた真逆の挨拶をみて、ジルにぃはにっこり笑った。そして小さな二人にもビシッとした姿勢をした後、「リオレッド王国騎士王ジル・カルカロフです」とあいさつをしてくれた。
「パパと一緒の騎士だ!」
「そうだよ。一緒だよ。」
「パパより強いの?」
「それはどうかな?おじさんと戦ってみるか!」
「うんっ!僕も強いよ!」
たくましいケンはすでにジルにぃにじゃれついて、楽しそうにお話を始めた。カイはしばらく私の足にしがみついていたけど、ケンが話すから怖くないって分かったのか、少しずつジルにぃの方に近づいていった。
「ほら、ルナも。」
「ル、ルナ…でしゅ。」
「初めまして、お嬢様。」
消えそうな声であいさつをするルナに目線を合わせて、ジルにぃはルナの頭を撫でてくれた。そしてルナを持ち上げて高い高いした後、私を見てにっこり笑った。
「リアと初めて会った日のことを思い出したよ。」
「私、もう少し大きかったはずよ。」
「ふふ、そうだったね。」
こんな小さいうちからイケメンが認識できるのか、ルナはジルにぃを見て少し照れた顔をしていた。パパに会った時とは態度が大違いだったから、心の中でパパに「どんまい」と言っておいた。
「いこっか。みんな待ってる。」
「うんっ!」
ジルにぃはそのまま片手でルナを抱いて、そして片手でカイと手をつないで、家の方へと向かった。私もケンと手をつないで歩きながら、あの頃毎日見ていた景色を、かみしめるように見つめて歩いた。
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