第5話 ただいまワッフル
「まずはここ!」
リオレッドでデートなんてしたことがないから、デートコースなるものはよく分からない。でもずっとエバンさんを連れてきたかった場所が、一つだけあった。
「リアちゃん!来てくれたのね!」
「カミラさん、お久しぶりです。」
ここに初めて来た4歳の頃から、カミラさんのワッフルが私の原動力の全てだった。
スイーツが大好きなエバンさんにはどうしてもこの店のワッフルを食べてもらわなきゃ気が済まなくて、私は得意げな顔で「エバンさん!」と彼を呼んだ。
「このお店のが一番おいしいんだよ!」
「そうなんだ。楽しみだな。」
エバンさんは興奮している私を見て笑った後、私の頭を撫でながら穏やかに言った。するとそれを見ていたカミラさんが「ヒューヒュー」なんてベタな冷やかし方をするから、一気に恥ずかしくなってしまった。
「ちょっと待っててね。」
カミラさんはそう言って、アツアツのワッフルを二つ持ってきてくれた。エバンさんに食べさせたいって思ってたはずなのに自分も充分ワクワクしながら受け取って、エバンさんに一つ手渡した。
「いただきます。」
エバンさんはとても爽やかに、カミラさんに向けて言った。イケメン過ぎてカミラさんの頬が赤くなっていたけど、まあそれは不可抗力だから許してあげよう。
なんて馬鹿なことを思いながらも、エバンさんがどんな反応をするか気になって、彼をジッと見つめた。するとエバンさんは一口食べてすぐににっこり笑って、「おいしい」と言った。
「でしょ?!今まで食べた中でも一番でしょ?!」
まるで自分が作ったかのようなテンションで言った。するとエバンさんはクスクス笑った後、私の頭にポンと手を置いた。
「今までって…。これが僕の初めての
「え…?」
今まで一緒にワッフルを食べたことはないけど、何回もリオレッドに遠征に行っているからもう食べたもんだと思っていた。今まで食べていなかったことに驚いて言葉を失っていると、エバンさんはまた楽しそうに笑った。
「リアと約束したから。」
「え?」
「君が連れてってくれるって、約束してくれたでしょ?」
そう言えば初めてテムライムに行った時、テムライムを案内してくれたお礼に「今度は私がワッフルを食べに連れて行く」なんて約束したことをやっと思い出した。
そんな些細な約束なんて律儀に守らなくてもよかったのに。そう思ってエバンさんをみると、エバンさんは穏やかな顔で笑った。
「ありがとう。約束守ってくれて。」
本当は私が言わなければいけないセリフを、エバンさんは言った。そう言って笑う彼の顔は、めまいがしそうになるくらいまぶしかった。
私はエバンさんが果たしてくれた大切な約束を裏切ったことだってあるのに、そんな小さな約束を覚えていてくれた上に、「ありがとう」とお礼を言ってくれるなんて。
彼は私にはもったいないくらい、心が暖かくて素敵な人だって思った。
「エバンさん。」
「ん?」
改めてエバンさんを見上げてみると、すごくおいしそうにワッフルを頬張っていた。その顔が少年みたいに無邪気でかわいくて、愛おしさがあふれて止まらなくなりそうだった。
「大好きっ。」
そう言えば最近子どもたちにばかり目が言って、エバンさんに直接伝えていなかった気がする。今すぐにでも伝えたい気持ちになってカミラさんがいることも忘れて言うと、エバンさんはワッフルを頬張りながら、顔を真っ赤にした。
「もう。
ずっとそのやり取りを見ていたカミラさんは、すこし呆れた顔で言った。ようやくそこで恥ずかしくなり始めた私は小さい声で「ごめんなさい」と言って、照れ隠しに自分もワッフルを頬張った。
「はぁ、お~いしっ。」
この世界に来てからアイスやパンケーキにも出会ったし、その他にも美味しスイーツをたくさん食べさせてもらってきた。
でも何と比べても、やっぱりこのお店のワッフルが一番おいしい。一口食べただけで全身に甘さと一緒に安心感が広がっていく感覚がして、改めて大きな声で「ただいま」って言いたい気持ちになった。
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