第66話 "可愛い"の圧倒的勝利
「リア、大丈夫?」
「う、うん…。」
それから私たちは出来るだけ人に会わないように気を付けながら会場の方へ向かって、自分たちの出番を待った。さっきティーナの言葉で緊張が解けたはずなのに、たくさんの人を見たらまた緊張がよみがえってきてしまった。
「それでは最後になりますが、当店自慢の新作ドレスを皆様に披露いたします。」
キャロルさんがそう言うと、もともと盛り上がっていた会場のボルテージがさらに上がった。もう出番がくるって悟ったら心臓が飛び出そうなくらい緊張し始めて、私は思わずエバンさんの腕をを力強くつかんだ。
「リア。」
するとエバンさんは、優しく私を呼んだ。声の方を見上げると、彼は相変わらず燃えている瞳で、私を見つめていた。
「息、吐いて。」
エバンさんの言葉で少し自分を取り戻した私は、「はぁぁああ」と溜まっていた息を吐き出した。するとエバンさんは「えらいえらい」と言って、子どもを褒めるみたいにして褒めてくれた。
「大丈夫。いつも通りね。」
「は、はい。」
いつも通りに出来るはずなんてないけど、とりあえず返事をした。するとキャロルさんが「どうぞ!」という声が聞こえてきて、それと一緒にエバンさんが左足を前に踏み出した。
すごく緊張はしていた。でも私が自信なさげに歩いてしまえば、この素晴らしいドレスの魅力だって半減してしまうかもしれない。
緊張している自分に何とかそう言い聞かせて、私は背筋を出来るだけ伸ばした。そしてエバンさんと同じように堂々と、一歩足を前に踏み出した。
「ドレスを着ていただいているのは…!皆様ご存知、アリア・ディミトロフ様。そしてエスコートはもちろん!エバン・ディミトロフ様です!」
キャロルさんがとても明るく、私たちを紹介してくれた。私は出来るだけ笑顔であたりを見渡しながら、手を振って歩いた。
するとさっきまで騒がしかった会場は、私たちが登場すると同時にシーンと静まり返った。その静寂がさすがに怖くなって「どうしよう」とエバンさんに言おうとした次の瞬間、どこからともなく歓声が上がり始めた。
「なに…?!何あのドレス?!?」
「美しいわ…っ!」
「違うわ、アリア様が美しいのよ!」
「それはそうだけど…っ。ドレスもまるで光ってるみたいだわ!」
歓声が束になって、私の耳に届いてきた。束になった暖かい歓声が直接胸に流れ込んきて、なんだか泣きそうになった。
でもこんなおめでたい場で泣くわけにはいかない。
なんとか涙をこらえて笑顔でファンサービスし続けていると、広場の上の少し高くなっているところに、王様と王妃様が立っているのが見えた。
「王様、だわ…。」
手を振りながら小さい声でそう言うと、エバンさんもそちらの方向を見た。すると王様も王妃様もそれに気づいて、「うんうん」とうなずいてみせてくれた。
本当は礼をしたほうがいいんだろうけど、二人はきっとバレないようにしてみているはずだ。だから私たちもそれにこたえるみたいにうなずき返して、気が付いていないかのようにみんなに手を振り続けた。
「こちら
キャロルさんが言うのに合わせて、私はくるっと一周回って見せた。すると人々から黄色い声援がたくさん飛んでくるのが分かって、だんだんと気持ちよくなり始めた自分がいた。
「すごいね、リア。みんな目が輝いてる。」
「うん。」
エバンさんの言う通り、こちらを見ている女性たちの目がすごく輝いているように見えた。可愛いものを見てときめくのは、どこの世界にいったって共通事項なんだなって、なんだかちょっと嬉しくなった。
「男の目も輝いているのは、きっと君のせいだね。」
するとエバンさんは、今度はすこし怖い声で言った。
チラッと顔を見て見ると、案の定怖い目をして私を見つめている男の人たちの方をにらんでいた。
――――仕方ないでしょ。
私、天使なんだし。
と心の中で思った。でもそんなことを言ったところでエバンさんは納得しないだろうから、「ふふふ」と笑ってごまかしておいた。
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