第65話 いよいよモデルデビューでっす。


「リア様、そろそろ。」



それからしばらくは、ディミトロフ家モデルのドレスの紹介の時間がとられることになっていた。そしてこの後いよいよ、自分の出番がやってくる。


ずっと見ていたかったのにと後ろ髪を引かれながら、私はティーナに誘導されるがまま、近くにあるキャロルさんのお店へと向かった。



「出なきゃ、ダメかな?」

「当たり前です。」



支度をされながら、最後の悪あがきをしてみた。

でもティーナは表情を変えることもなくビシッとそう言って、準備をサクサク進めて行った。



「ティーナ、ほんと変わったよね。」

「え?」



鏡越しにそんな姿を見ていたら、なんだか初めて会った時のことを思い出した。私の言葉でやっとティーナは動きを止めて、私の方を見た。



「最初テムライムに来た時のこと、覚えてる?」

「もちろんです。」



すぐに私の支度に意識を戻したティーナが、穏やかな顔でそう答えてくれた。あの時のティーナはもっとおどおどとしていて、私の質問にはっきり答えてくれることもなかった。



「私がどんな人って聞いてるかって聞いた時、ティーナさ…」

「聡明な人だと聞いておりますと、お答えしましたよね。」



私が話を続ける前にティーナは言った。なんだ、めちゃくちゃ覚えてるじゃんってちょっと笑ってしまった。



「聞いてたのと全然違ってガッカリした?」



聡明な人なんて、そんなハードルの高いこと言わないでほしかった。

じぃじが言ったことなのか他の人が伝えたことなのかは分からないけど、どうせなら"やばいやつ"くらいのこと伝えてハードル落としててくれよと、今更ながら思った。



「そうですね。確かに想像とは全く違った方でした。」



そんなに素直に答えなくていいのに、ティーナはやっぱりテキパキ準備をしながら言った。自分で聞いたくせに拗ねそうになっていると、「ふふ」とティーナが笑った。



「想像をはるかに超えたことをなさる、豪快な方でした。でもそれはいつも、誰かのためを思ってのことだと、そばにいていつも感じます。」



ティーナはニコニコしながら言った。そして小さく「よし」と言って、私を立ちあがらせた。



「リア様はおキレイな方です。」



金色の刺繍がライトに反射して、キラキラと光っていた。宝石のような輝きというよりほんわりと暖かい雰囲気の光で、私の全身が包まれているようにすら感じた。



「見た目も、心も。リア様はとてもおキレイです。今まで出会った、誰よりもずっと。」



最後の仕上げと言わんばかりに、ティーナは私の髪を少しだけ手直しした。ハーフアップにされた髪にはところどころに金のちょうちょのアクセサリーが付けられていて、まるで自分がお花になったような気持ちになった。



「はい。行きましょう。」



ティーナはにっこりと笑って、私の背中を押した。

さっきまで感じていた不安がティーナの言葉で少し軽くなる感じがして、私も「うん」と笑顔でうなずいた。



「ありがとう、ティーナ。」

「こちらこそです。」



ティーナはやっぱり穏やかに笑いながら、部屋のカーテンを開けた。すると初めてデートした日みたいに外で腕組みをして待っていたエバンさんが、こちらを見て驚いた顔をした。



そう言えばエバンさんに、この光るドレスを見せるのは初めてだった。確かにこのドレスは初めて見た時、言葉を失うほどキレイで魅力的だ。



「エバンさん。これ私欲しい。買い取っていいかしら?」



おねだりすることってあまりないし、家にはたくさんじぃじにもらったドレスもある。だから必要ないのかもしれないけど、着てしまったらほしくなってしまって、思わずエバンさんにお願いをした。



「リア…。」



するとエバンさんは驚いた顔をしたまま、私の方に近づいてきた。

家でゴロゴロしているだけのお前にドレスなんか買えるか!贅沢娘が!と怒られないかと無駄な妄想をしていると、エバンさんは勢いよく私を抱きしめた。




「君のためのドレスじゃないか…っ!」



あまりに勢いよく抱きしめるもんだから、ティーナが焦って「エバン様!」と怒って言った。するとエバンさんはゆっくり体を離して「ごめんね」と謝った。



「似合うよ、本当に似合う。僕はあと何回リアの可愛さに驚けばいいんだろう。」

「う~ん。一生かな?」



調子に乗ってこたえると、エバンさんはクスクス笑った。

さっきまでちょっと怒っていたティーナもその会話を聞いてクスクス笑って、「行きますよ」と言って私たちをせかした。

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