第64話 いよいよやってきたお披露目会!
「はぁ…。緊張する。」
そしてまた1週間後。私はもうティーナもエバンさんも聞き飽きたんじゃないかってセリフを、朝から何度も吐いた。
「大丈夫です。リア様は本当にお美しいので。」
「そうだよ。何しててもキレイなんだから。最悪転んでも可愛いよ。」
「転…ぶ…?」
「エバン様。」
ティーナが怖い声でそう言うと、エバンさんは「ごめんごめん」と軽いトーンで言った。エバンさんだって私をエスコートして途中まで歩くはずなのに、どうしてこんなに落ち着いているんだって、なんだか少し不満に思った。
「僕がいるから。ね?」
「うん…。」
確かに隣にいてくれることは心強いけど、それでも緊張がゼロになるってわけではない。私はそれからも何度もため息をつきながら、お披露目会の会場になっている広場の方へ向かった。
「今日はよろしくお願いしますね。」
忙しそうに動いているキャロルさんに声をかけると、相変わらずすごく嬉しそうな顔で言った。でもすぐに私たちにかまう暇はないって様子で、どこかへ行ってしまった。
もうすぐお披露目会が始まる。でも私の出番は最後の最後だから、出番まではまだ時間がある。
「ダメだ…。」
「リア。大丈夫だから。」
だからと言って緊張が収まるわけでもない私は、エバンさんの腕にギュっとしがみついた。
「ままっ。だっこ。」
「カイもぉ~。」
私の不安を察しとったのか、おとなしくエバンさんとティーナと手をつないでいた二人が一斉に私のところに来た。私はしゃがんで二人をギュっと抱き締めて、「大丈夫だからね」と自分に言い聞かせるように言った。
☆
「みなさま、お集まりいただきありがとうございます!」
それからしばらくして、お披露目会は始まった。
広場にはお祭りのときみたいにたくさんの人たちが集まってくれて、みんな楽しそうな顔でステージを見つめていた。
「いつも当店をご利用いただきましてありがとうございます。改めまして、キャロライン・ボンドでございます!」
たくさんの人の中でも、キャロルさんは変わらない様子で明るく挨拶をした。あれだけ緊張せずに堂々と出来るのって本当にすごいなと、今のうちから緊張している自分が少し恥ずかしくなった。
「それでは早速ですが、当店のドレスの中でも特に人気のあるものを紹介していきます!」
それからキャロルさんは、まずは人気だというドレスの紹介を始めた。
人気だってという事もあってどれもとてもかわいくて、見ている女性たちが「わあ」と歓声を上げているのがわかった。
「すごい。」
「ね。」
前世にいた時テレビで見たことのあるファッションショーの映像みたいに、モデルさんがステージに出てくるたび、どんどん会場は盛り上がった。キャロルさんは流ちょうにおしゃべりをしながらそれを盛り上げていて、会場がどんどん温まっていくのがよく分かった。
「それでは続きまして。本日のメインイベントと行きましょう!」
一通り新作のドレスがで終わったようで、キャロルさんが仕切り直すみたいにして言った。いよいよ、ディミトロフ家のドレスの登場だ。
私は思わず両手を組んで、その光景を見つめた。
「この度、ディミトロフ家にご協力いただき、新しいスタイルの給仕ドレスを作らせていただきました。それが、こちらです!」
苦労の末出来上がったドレスを、モデル役の子が完璧に着こなして出てきてくれた。
すると集まった人たちがその見慣れないドレスを見て、色々な声を上げ始めた。
「すごい、とても動きやすそうだわ。」
「それにとてもかわいい…。」
「あのエプロン!ドレスが汚れなさそうですごくいいわ!」
「うらやましい…。」
私たちの目論見通り、あちこちから称賛の声が上がっていた。キャロルさんは盛り上がっている中でも冷静にドレスの機能性を紹介してくれていて、情報が増えていく度、歓声もどんどん盛り上がって行っているように聞こえた。
「そしてこの給仕ドレスですが…。ほぼ同じ形のものを、"ディミトロフ家モデル"のドレスとして販売したいと思います!」
キャロルさんがそう言った瞬間、後ろからまたモデルさんが出てきた。そのモデルさんは"ディミトロフ家モデル"の給仕ドレスを着ていた。
色や襟の形とかは多少違うけど、生地や機能性の面ではディミトロフ家のドレスに劣らない、最高の給仕ドレス。
「すごい…っ!」
「着てみたいわねっ!」
「私絶対買う…っ、ディミトロフ家の給仕さんと同じ服が着られるなんて!」
そんな最高のドレスをみて、会場の女性たちがもっと盛り上がるのが分かった。
自分も制作にかかわったものを見て人が喜んでくれている顔を見るのは、商売をするとかドレス産業を盛り上げるとか本来の目的を忘れてしまうくらい、すごく嬉しい事だった。
「よかったね、リア。」
「うん…っ。」
今の状況を打開できる何かがしたいと思って、始めたことだった。
それにまだ始めただけで、何の結果も出せていない。でもこうやって誰かが喜んでくれるならそれだけで充分だって、盛り上がっている人たちを見つめて思っている自分がいた。
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