第63話 ついに完成!


それから約1週間ほど経って、ついに新しいドレスが完成した。

シンプルなロングスカートでカラーはネイビー。素材はテムライムならではのストレッチ素材で作られているので動きやすく、そして襟のところにはディミトロフ家の紋章を入れた。


シンプルなデザインだけどキャロルさんがつくったフリルいっぱいのエプロンが可愛らしく、私でも着てみたくなるほどだ。そして手の裾部分だけが汚れやすいという要望に応えるために、掃除や料理など汚れやすい仕事をする時用に、"割烹着"みたいな形のエプロンも作った。それは"元日本人"である、私が提案をした。



「完璧です。非の付け所がありません。」

「ほんと?ほんと?」

「はい。」



1日そのドレスを着て仕事をしたティーナが、嬉しそうな顔で言った。

私はただキャロルさんと給仕さんの橋渡しをしていただけなのに、まるで自分が作ったかのような気持ちで喜んで、その喜びをキャロルさんに伝えに行った。



そしてすぐに、完成したことを王様にも伝達してもらった。すると王はいつでも私の好きな日程で、お披露目会をしていいと言ってくださった。



「来週の週末はどうですか?」

「はい、大丈夫です。」



お披露目会では今回のドレスはもちろん、その他おめかしのために着るドレスとか、ビジューの人たち向けのドレスの新作も披露することになっている。私の役目はもうほぼ終わってしまったから、私も純粋にお披露目会をとても楽しみにしていた。



「あの、リア様?」



「それではあとはよろしく」とお得意のセリフを言って去ろうとした時、キャロルさんが何かを企んでいる顔で私を見た。その顔をするのはいつも私なのにと思って、恐る恐る「はい」と返事をしてみた。



「お披露目会に、出ていただけませんか?」

「へ?」



びっくりして思わず間抜けな声が出た。

驚いて固まっている私に対して、キャロルさんはとてもスムーズな動きをして、奥の方から何やらドレスを持ってきた。



「こちら、私共の渾身の新作です。」

「わ、わぁ…っ!」



キャロルさんが持ってきたのは、鮮やかなパステルイエローのドレスだった。フレアの部分の一番上にはレースが重ねられていて、そのレースの生地はキラキラと光る糸で縫われているように見えた。


レース全体が光っているおかげか、光も当たっていないのにドレスが輝いて見えた。さっきまで固まっていたはずなのに、その美しさに感動して私は思わずそのドレスに近寄った。



「ヤマネコという、虫の糸から作った生地なんです。」



久しぶりに出ましたよね。名前ぐちゃぐちゃのやつ。でも今回は知ってます。図鑑で見たことがあります。


ヤマネコと呼ばれる生物は、コガネムシみたいな見た目をしている虫だ。色が金色でとても珍しかったから、嫌いな虫の名前でもなんとなく覚えていた。



「糸を取るのは難しいと言われていたんですが、半年ほど前それに成功して…。これが第一作目のドレスです。」

「本当に…、本当にすごいです。」



その発見はまさに、人類が"シルク"を発見した時に似ているんじゃないかって思った。もしこれが輸出出来るほど量産出来たとしたら、のちに交易の道が"シルクロード"ならぬ"ヤマネコロード"と呼ばれ始めてもおかしくはないほどの大発見だとおもう。ダサいけど。



「まだあまり量産は出来ませんが…。こちらも売り出していこうと思っています。リア様に着ていただければ、ドレスの輝きも一層増すかと。」

「私、が…?」



知ってる。私の容姿が天使だってことは、22年をかけてよく実感している。すみません。

でももしかしてこの世界にもシルクロードが出来上がるほどの発見になるかもしれないこのドレスを、モデル経験のない私が着ていいものなのかって、小心者の私が全力で心配していた。



「はい。これはリア様にしか出来ないことです。」



でもキャロルさんは自信満々の顔で言った。

こんな風に言ってもらえているんだから断たら失礼だって自分に言い聞かせて、私は小さい声で「はい」と返事をした。



「それでは歩き方の練習もしていただかないといけないですね!明日からまた毎日来ていただけますか?」

「は、はい…。」



キャロルさんはとても嬉しそうな顔で、お披露目会の段取りをし始めた。張り切っている姿を見たらプレッシャーがさらに増しそうな気がしたけど、でもやるからには全力で頑張らなきゃなと気合を入れた。

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