第60話 敵襲、ですか?



「ご飯にしよっか。」

「うん、そうだね!」

「まんまぁ!」



それからしばらく遊びまわって少し疲れてしまった私たちは、持ってきたシートを引いてそこに座った。今日はマリエッタさんが作ってくれた、特製のお弁当を持ってきた。本来私がお弁当まで用意すべきなんだろうけど、それでは休養にならないと、マリエッタさんに言われてしまった。



「うわぁ、美味しそう。」



お弁当とは言っても、もちろん日本風のお弁当にはならない。

用意してくれたカゴの中には美味しそうなサンドイッチと、カイとケンの好きなフルーツがたくさん詰まっていた。



「まま、これ。」

「わかったわかった。ちょっと待って。」



走り回ってお腹がすいていたらしい子どもたちは、食べ物を見るや否やそれを指さして食べたいと主張をしてきた。私はそんな二人を何とか静止しながら手を洗わせて、それぞれにサンドイッチを手渡した。



「気持ちいいね。」

「うん。」



いつも食べているはずのマリエッタさんのトマトサンドイッチが、いつもの数倍美味しく感じられた。草原を吹きぬける風が心地よくて、太陽もぽかぽかと暖かい。



「幸せだ。」



一緒にいるだけで、何度だって幸せだって思う。その上今の天気とか肌で感じる大自然が、その幸せをもっと加速させているように思えた。



「リア。」


体いっぱいに風を吸い込んで深呼吸をしている私を、エバンさんが優しく呼んだ。

呼ばれたのに反応してエバンさんの方に顔を向けると、エバンさんはそのまま、私に軽くキスをした。



「カイもっ。」

「ケンもっ。」



今度はそれを見ていたカイとケンが、立ち上がって私の両頬にキスをしてくれた。もう愛おしさがあふれ出して止まらなくなった私は、二人をまとめてギュっと抱き締めた。



「大好き~っ!」

「なんか嫉妬するな。」



エバンさんはそう言って、本当に悔しそうな顔をしていた。私は見せつけるようにして二人を抱きしめて、「残念でした~」と言ってみせた。



するとエバンさんは急に怖い顔をして、後ろに振り返った。



あ、あれ?怒らせた?

こんなことで…?



顔は見えなかったけど、背中から伝わってくる空気が何となく怖かった。


からかっただけつもりだったけど、本気で怒らせてしまっただろうか。いつも感じない雰囲気が怖くなって、私は思わず子どもたちを抱きしめている手を強めた。



「エバン、さん…?」

「リア。」



恐る恐る、エバンさんを呼んでみた。すると彼はやっぱりこちらは見ないまま、怖い声で私を呼んだ。



「何か来る。ここにいて。」



エバンさんはそう言って、ゆっくりと立ち上がった。

何か来ると言われても、姿も見えないし音も聞こえない。でもエバンさんはやっぱり警戒した様子で、ゆっくりと前の方へと進んでいった。



え、なに?

なんか来る??貞子?

きっとくる~?のやつ??


いや、敵襲?

襲われる?ついに殺される?

今?ここで?嘘でしょ?

それなら貞子の方がマシか?



「ままぁ?」

「だ、大丈夫。大丈夫だから。」



不安そうにしている子供たちをもっと不安にさせないためにもそう言ったけど、一番心細いのは私だった。私まで不安に思っていることを子供たちに伝えてはいけないと思って必死で隠していたのに、その努力もむなしく子どもたちは私の胸に顔をうずめはじめた。


そうしている間にも、エバンさんは少しずつ前に進んでいた。気が付けば姿が小さくなりはじめて、私の不安はさらに加速した。



え、なになに、本当になに?

エバンさんめちゃくちゃ警戒してるけど?

なんなら戦いの姿勢入ってますけど…?


いざとなったらエバンさんは置いて逃げた方がいいの?

そりゃそうだよね、私達がいたって足でまといだし…。


いやでも二人抱えてドレスで走ったって逃げられるわけないし、

それだったらウマを連れてくる?!

え、でも子ども二人抱えてウマ?!無理すぎるだろ。



いや、でも背に腹は代えられない。

やってみるしか…



「え?」



薄情にも私がエバンさんを置いてどう逃げようか考えていた時、エバンさんは警戒していた体制を急に正して、キレイな敬礼をした。



「え、なになに。何事?」



エバンさんが言う"何か"の正体が気になって、私は恐る恐る立ち上がってみた。

するとエバンさんのいるところの少し先の方には、ウマに勇ましく乗っている、王様の姿が見えた。

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