第56話 バレちゃった、てへッ
「それじゃあ、よろしくお願いします。」
「はい!」
リンダさんは私ともう一人のお手伝いさんにトマトを任せて、自分は他のものを収穫しに行った。そこからは少しでも力になれるように、ただ集中して収穫をした。
だんだん慣れてきてテンポよく収穫していくと、いつしか腰につけているカゴの中にはたくさんのトマトが溜まっていた。
――――これで、不作なんだ…。
私から見れば、充分な量がなっているように見えた。
でもよく見て見ると畑の奥の方の木には少ししかなっていないようにも見えて、中には全くついていない木もあった。
不作の原因は、長く続いた雨のせいだといっていた。
さすがに天候をどうにかしようとは思わないし、思ったところでどうにもできない。
いっそのこと、祈祷の事業でも始めてみるか…。
と、バカなことを考えてみたけど、私の思い付きの力で祈祷なんて出来るはずがない。水はけの改良とか土の改良とかいくらでも方法はあるのかもしれないけど、農業初心者の私がそんなことを考えなくても、きっとそんなことはすでに考えられている。
もし前世の画期的な案があるのなら使えたのかもしれないけど、私はそんな知識なんて全くないまま転生してしまっている。
まあできる事と言えば、この動きにく過ぎる服をどうにかすることくらいか。
不作を直接どうにかすることは、多分私には無理だ。
出来る事としたら農作業の効率を上げて時間を作って、農業をする人たちがどうにかするための方法を考える時間を延ばすくらいだろう。
やっぱりズボンがいいけどな~。
そういえば前世ではホームセンター服みたいなの流行ってたよな。
興味はあんまりなかったけど、
一回くらい着てみればよかったかしら。
でも着たところで構造もわからないし、それに…
「今度は何をやってるのかな?」
作業に集中していたせいで、久しぶりに余計なことを色々と考えていた。その私の思考回路を完全に断つように聞こえてきたのは、この場にいてほしくない人の声だった。
「エ、エバン、さん…?」
「うん、ただいま。」
エバンさんは笑顔で、私の後ろに立っていた。なぜかその笑顔に恐怖を感じた私はその場に固まったまま、エバンさんの顔を見続けた。
「君は本当に…っ。」
ついに呆れられた。
今まで自由にさせてもらって好きにしてきたけど、今回こそ絶対に呆れられた。この国でエバンさんに呆れられたら終わりだってやっと思い出した私は、「えっと」と言いながら必死で言い訳を探した。
「あの…えっと、これは…。あの…。」
でもここにいる事の言い訳なんてなんも浮かばなかった。言い訳をするのには自信があったはずなのに、その能力はもしかしたら転生後にどんどん失われ始めたのかもしれないと、また余計なことを考えた。
何となく後ろめたくて知らないうちにうつむいていた私に、エバンさんがどんどん近づいてきた。
余計な事するな!で閉じ込められたりして、ついにゲームオーバーを迎えるかなと覚悟した次の瞬間、エバンさんは自分の袖で、私の頬のなにかをぬぐってくれた。
「土、ついてる。」
驚いて顔を上げると、そこには穏やかな顔で笑っているエバンさんがいた。驚いて動けないでいると、彼は少しかがんで、私に目線を合わせてくれた。
「ご、ごめんなさい。」
それはまるで、親が子どもを怒る前みたいな仕草だった。
怒られた子供の気持ちになった私が思わず謝ると、エバンさんは「ううん」と言って首を横に振った。
「マリエッタさんに言われたんだ。」
エバンさんはまた私の頬についているらしい土をぬぐいながら言った。
あの人はもう何を言っても無駄ですとか影で言われてたらどうしようと思いながら立ち尽くしていると、エバンさんは「キレイになった」と言ってにっこり笑った。
「リアは動いていないとダメだって。少しくらい外に出して働かせた方が元気だから、そうさせてあげろってさ。」
ストレートに見抜かれていたことが、少し恥ずかしかった。でも私のことをちゃんと見ていてくれることが、とても嬉しかった。
「楽しい?」
「うんっ。
見捨てられていなかったことも嬉しくて、早口で言った。するとエバンさんはクスクス笑ったあと、私の頭にポンと手を置いた。
「僕にも、やらせてください。」
エバンさんはそのまま、近くにいた人に言った。その人は少し驚いた顔をした後、すぐにエバンさんのためにカゴとはさみを持ってきてくれた。
「よし、やろっか。」
「はいっ。」
それからエバンさんは慣れた様子で、トマトをどんどん収穫していった。私も負けないようにしようって頑張ったけど、やっぱりリンダさんやエバンさんみたいに上手には出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます