第57話 名は体を表しているらしい
「今日は本当にありがとうございました。」
「こちらこそ。坊ちゃんまで手伝ってくれて助かったよ。」
それから数時間、私たちは没頭して収穫を続けた。
私はあまり役に立てなかったけど、昔はよく収穫を手伝いに来ていたらしいエバンさんや他の人たちの活躍があって、すぐに今日の分のトマトの収穫は終わった。
「じゃあティーナ。また明日ね。」
「はい。」
まだ他の収穫をしているティーナを置いて、今度はエバンさんが乗ってきたウマに乗って家まで帰った。二人でウマに乗ったのは初めて告白されたあの日以来で、なんだかすごく新鮮でドキドキしてしまった。
「まぁま~。」
「ぱっぱ!」
「ただいま~、おまたせ!」
子どもたちは嬉しそうに私たちを出迎えてくれた。私はとりあえず促されるがままシャワーを浴びて、いつものドレスへと着替えた。
「お待たせ。」
支度を終えると、部屋ではカイとケンが楽しそうにエバンさんと遊んでいた。エバンさんが出張に行っていたのは1か月半くらいだろうか。その会えなかった時間を埋めるかのように三人は本当に楽しそうにじゃれ合っていて、私はその光景を微笑ましい気持ちで眺めていた。
「ガオ~~!」
「きゃああ!」
しばらくすると、エバンさんが怪獣役になって二人を追いかけ始めた。するとカイは走って私の足の後ろに隠れたのに対して、ケンは私の前に立って「やぁ!」と言いながらエバンさんに立ち向かっていった。
「お、父さんとの訓練の成果かな。」
訓練なんて大それたことは出来ていないと思うけど、エバンさんの言う通りケンはエバンさんに勇ましく挑んでいた。一方カイはその様子を、私の足の後ろからひょっこりと覗いてみていた。
「一緒に育ててるはずなのに、性格は全然違うのね。」
ご飯だって絵本だって買ってくる服だって、全部平等にしているつもりだ。なのに二人の性格はいつしか真逆になっていて、双子なのに違うところもあるんだなって、当たり前のことを考えた。
「ほら、カイもおいで。」
「いやぁあ~。」
エバンさんはもう怪獣役をとっくにやめているのに、カイは断固として私の後ろから離れようとしなかった。髪も目の色も顔もエバンさんにそっくりなのに、騎士には向いていないかもしれないと、早くもそう思った。
「名は体を表すって、あながち間違ってないかもな。」
同じように育ててきたはずが、"剣斗"と名前を付けた子だけが立ち向かっていく姿を見てそんなことをふと思った。するとエバンさんは不思議そうな顔をして、「名は体を…?」と言った。
「うん。前世の言葉に"名は体を表す"ってのがあってね。名前はそのままその人のことを表してるって意味なの。」
「へぇ。」
「ケントのケンは、
「なるほどね」と言って、エバンさんは笑った。そしてケンのことを思いっきり高く抱き上げて、「強い子だ」と言って褒めた。
その代わりに私はカイのことをギュっと抱き締めた。よっぽど怖がっていたのかカイは私の胸のあたりにギュっとしがみついて、「まま」と言った。
「カイは、優しい子だもんね。」
強く育ってくれることは、とても嬉しいことだ。エバンさんのように誰かを守る仕事がしたいと言ってくれるのなら、喜んで背中を押してあげる。
でも…。
「人の痛みが、分かる子になってね。」
強くなくていい。臆病でもいい。
誰かの痛みが分かる子になってくれれば、それでいい。
「カイトのカイは、穏やかな海なんだから。」
そんなことを言ったところで、きっとまだ二人には理解できないんだろう。でも胸の中で「まま」と言ってくれるこの子を人の気持ちが分かる優しい子に育てるのが、私の今の大きな仕事の一つでもある。
「エバンさん。」
「ん?」
「久しぶりにみんなでお出かけしたいなっ!」
エバンさんはにっこり笑って「いいね」と言ってくれた。
仕事をするのも人のためになることを考える時間も大切だけど、家族水入らずの時間はもっと大切だ。明日は仕事を全部やめて子供たちと遊ぼうって決めて、相変わらず楽しそうに遊んでいる3人の姿を見つめた。
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