第54話 試作品を作ります!


それから私はほぼ毎日、キャロルさんのところに通った。

基本的なドレスの形の見直しから、生地の見直し、縫製方法や色…。デザインを新しくする、と一言で言っても実際やることは山ほどあった。



「試作品がまた出来上がりましたよ。」

「わぁ!また可愛くなってるっ!」



そして改良に改良を重ね、試作品はもう10作目に到達した。

私はキャロルさんが縫い上げてくれた試作品を持っては、ティーナやそのほかの給仕さんたちにも順番に着てもらって、新たな改良点を見出すようにしている。



「ティーナ、今日はこれお願い。」

「はい、かしこまりました。」



ここまで来てようやく、試作品がずいぶん形になってきた。

ふわっと広がっていたスカートの裾のボリュームは要望通り落として、ストレートなタイプに変えた。その代わりエプロンにフリルを多めにつけることで、かわいさは保たれるとキャロルさんは言っていた。


別に寄せていったわけではないけど、試作を重ねるにつれてドレスはどんどんメイド服のコスプレって感じに仕上がってきた。きっと昔メイド服を作った人だって、どんどん理にかなったデザインを作っていったんだろうなと、いつも感心している。




「リア様。ずいぶん動きやすくなりましたが、腰の部分がもう少し緩いともっといいかと。」

「なるほどね。キャロルさんに伝えてみる!」



最近ではティーナだけじゃなくて、他の給仕さんたちも私にフランクに接してくれるようになった気がする。最初は気を遣わせることになったなって後悔もしたけど、今では距離が縮まった感じがするから、始めてよかったって本当に思う。



「リア様、あの…。明日はおやすみ、ありがとうございます。」



ワクワクしながら意見をまとめる私に、ティーナは言った。

おやすみがあるってのは当然の権利なんだから謝ることないのに、ティーナはとても申し訳なさそうな顔で言った。



「いいんだよ、もっとおやすみして。」

「い、いえ…っ。」



ティーナは結婚してから家の用事とかで休むことは増えたけど、でもそれでもまだ休み足りないと思う。そんな風だと有休を強制的に消化させてやるぞって、元社会人の私が言った。



「明日は収穫の日なんだっけ。」

「はい。」



しかもお休みって言っても、ティーナはだいたい家の農業を手伝っているとリンダさんから聞いた。それって全然休みじゃないし、むしろここの仕事より体力を使う気がする。



ティーナが一日何もしない日ってあるんだろうか。メイサだってそうだったけど、休んでいる姿を見たことがない。


本人たちは"動いてないと気が済まない"っていうんだけど、たまには私の前でベッドにダイブすることがあってもいいのに。まあ現実的にそれは無理だろうから、せめて仕事を手伝ってあげられたらな。



――――仕事を、手伝う…?



「ねぇ、ティーナ。」

「は、はい。」



よほど私が悪い顔をしていたのか、ティーナは少し引いた目でこちらを見ていた。それでも悪い顔をやめられない私は、その顔のまま「お願いがあるんだけど」と言った。



「なんでしょう。」



ティーナはいつもより小さな声で言った。私はその言葉にすらニヤッとして、「あのね」と言った。



「私も、手伝いたい。」



明日はキャロルさんのお店がおやすみだから、どっちみち相談に行くことが出来ない。ティーナもおやすみだし、家でゆっくり子どもたちと遊ぼうなんて思っていたんだけど、手伝えることがあるなら手伝いたい。



っていうのは建前で、前からちょっとやってみたかったってだけなのは秘密の話だ。



「そ、そんなわけには…っ!」



ティーナは予想通り、私の提案を突っぱねた。私は「ううん」と言ってその言葉を否定した。



「やってみたいの。」



農業体験をしてみたい。そしてもし不作と言われる農業界でも私が何か出来ることがあるんだとしたら、何かためになりたい。


ただの脱力系OLだったはずの私の思考回路は、いつしか180度変わってしまっていた。それがパパの影響なのかじぃじの影響なのかよく分からないけど、自分が力になれることがあればと考えることは、今の私にとってはすごく心地のいいことだ。



「ね?お願いっ!」



私が言いだしたら撤回しないってのをよく知っているティーナは、「はあ」と思いっきりため息をついたあと、困った顔をした。



「分かりました。少しだけですからね!1日中はダメです!」



まるで子供に言い聞かせるみたいに、ティーナは言った。私も自分が子供になったかのように「はぁい」と返事をして、おとなしくその日は眠りについた。

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